「じゃあ、オレが行く」
『家』に戻ったユイが、リーダー・ユキムラに例の少年のことを報告し終え、 彼から一番に返ってきた答えが、コレだった。
「………ドコがどうなって、じゃあボスなの?」
 呆れたようにユイが溜息を洩らす。
『家』に戻ってくると、ボスがエントランスをくぐってすぐのロビーの居た。 だが、誰かから逃げているらしく、ソファの後ろで体を小さくして居た。『家』を出たいオーラを放出しまくって いるユキムラの首根っこを捕まえて止めていたのはスカイだった。
 彼女曰く、ボスはファータから逃げているらしい。
 確かファータはユキムラから、お手伝いと称して、自分にピッタリ張り付いて監視を続けていたアズマにファ ータを張り付かせ、彼自身はまんまとアズマの監視下から逃げていたはずだ。どうやら、「娘はママの 手伝いをするもんだぜ」とでもアズマに言いくるめられたのだろう。ユキムラは結局、べーーったりく っついてくるファータから逃げる羽目に陥ったようだった。
「ボスがオレみたいな男前だって知ったら安心するんじゃないのか?」
「あー成程。ボスがこんなぼんやりさんだって知ったら安心するわね」
「誰がぼんやりだ!」
 軽ーく自分の男前発言を流すユイに、ユキムラは「冗談だ」と付け加えたあと、小さな声で言った。
「…ボスがオレみたいなガキだって知ったら、安心するだろ?」
 自分が未だ少年の域を出ていないことを、自覚をしてはいるらしいが、 そのことを認めるのは、あまり気持ちのいいことではないらしい。
 潔く自分が子供だと認めたユキムラに、いつもなら茶々を入れるところだったのだが、 この時ばかりはアズマも何も言わなかった。代わりに、
「だったら俺がいく」
 と口を開いた。
 ユキムラと年はそう変わらない。リーダー自ら行かずとも…というより、 ユキムラを行かせたくない。また、とんでもないことをしでかしてくれそうな気がしたのだ。
 だが、あえなく、彼の申し出はリーダー自ら却下されることになる。
「駄目だ」
「…何でだよ」
「アズマの顔じゃあ無理だろ。逆に疑われるのがオチだ」
「大人っぽいもんねーアズマさん」
 強面すぎだというユキムラの言葉を、うまーくユイがフォローする。
「そうか?」
「そうよ。それに、銃は持ってたけど、使う気はなかったみたいだし、大丈夫だと思うわよ」
 後半からは、アズマに向けての言葉。ユキムラを行かせても大丈夫だと。
 ユイにまでそう言われて、それでも反対する気は彼にはなかったらしい。だが、 彼の不安は完全には払拭されなかったらしく、眉間に皺が残っている。だが、
「…仕方ねーな」
 アズマは僅かの沈黙の後、肩を竦めてみせた。
「よし、じゃあ行ってくる!」
「待って!」
 アズマの気が変わる前にと立ち上がったユキムラを、ユイが引き留める。 まさか今更反対するつもりかとビクビクしつつ振り返ったユキムラだったが、 彼女にその気はなかったらしい。「ちょっと待ってて」と言い残し、キッチンの方に姿を消してしまった。
 唐突なユイの行動に首を傾げつつ、言われたとおり、ユキムラは彼女が帰ってくるのを待つ。 しばらくしてユイは手に袋を持って帰ってきた。アズマとユキムラとが何だろうかと首を傾げている前で、 彼女はそれをユキムラに手渡した。
「はい」
「何これ」
「エサ」
「…何の?」
「子供の」
「……はぁ?」
「餌付けが一番よ」
「………さいでっか」
 笑顔のユイと、未だ眉間の皺を解いていないアズマに見送られ、ユキムラは『家』を出た。
 と、そこへ、
「ボス――――――!!!」
 まいたと思っていたファータがそこにはいた。
「げっ」
 思わず体を引いたユキムラに、ファータが容赦なく飛びつく。
「ファータも行くぅ〜」
 これを引き離すのは容易ではないだろう。その事を悟ったユキムラは、仕方なく頷いたのだった。




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