「はァ? アズマに恋人か思い人ォ〜??」 と、思い切り眉根に皺を寄せ訊ね返したのはグリフォードだった。 そんな彼の周りには、4人のチビたちが居た。 いわずもがな、トーラ&クレア、フォーラ&ファータの4人である。 「そう! ちょうどC−cityができたくらいに」 がっついて訊ねてくるクレアに、僅かにあとずさりながら グリフォードが首を捻る。 「グループが一つになった頃ってことか?」 「「「「うん!」」」」 頷き返す力強い声は4つ。ぴったり揃っている。 「うーん」 腕を組み考えこむグリフォードに、4人はその口から 答えがもたらされることを期待し、彼ににじりよる。 「何か相談されたりとかないの!?」 トーラにまで期待のこもった目で見つめられ、グリフォードは ますます考え込む。 「う――ん」 だが、考えても考えても全くそんな記憶は見つからない。 無理だと言おうとした時、それをとどめるように、 フォーラとファータが口を開いた。 「黒髪で肩までで」 「目が大きい子」 「キャミソール!」 「ミニスカート!」 と、二人から次々ともたらされる情報に、グリフォードの眉が僅かに寄せた。 「あ―――。何か覚えがあるぞ。そんな子…」 そんな彼の言葉に、チビたち4人はますますグリフォードの傍に寄る。 「「「「ホント!?」」」」 早く早くと急かしてくるチビたちに、グリフォードは一瞬思い出しそうだった記憶を 再び捜し始める。 「ちょっと待てよ。思い出しそうだ」 「早くぅ!」 「待てって。ココまで出てるんだがなァ」 こめかみの辺りをつついて見せ、もう少しだと強調してみせる。 「う―――ん」 チビたちが何故そんなことを訊いてきたのかという疑問はこの際置いておき、 グリフォードは真剣に悩み始める。本当にあと一歩で出てきそうなのだ。 あと一つ何か情報がくれば出てきそうなのだ。もう、気持ちが悪くて仕方がない。 胸がくすぐったいようなじれったさが彼を苛んでいるらしい。 眉根をきつく寄せ、うーんうーんと唸っている。 そうしてなかなか答えが出せないでいるグリフォードを同じくじれったく思っていた チビたちは、黙って顔を見合わせる。そして、 「「「「………ふぅ」」」」 と、溜息を一つ吐き出す。 「う―――――ん。あ!! 思い出したァ! それって―――あれ?」 ようやくグリフォードが答えを導き出したその時にはもう、 痺れを切らしてしまったチビたちの姿はそこにはなかった。 「グリフさんはダメだわ。もうモウロクし始めてんのよ」 廊下をてくてく歩きつつ、とんでもないことを言ったのはクレアだ。 「…それはヒドイよ、クレア」 いきなり唐突な質問をけしかけておいて、その答えがなかなか出てこないから 耄碌している決めつけるのはどうだろう。 トーラが苦笑しつつ口を挟んだのが、そんなものドコ吹く風。クレアはそれを 訂正することなく―もしかしたら耳に入っていなかったのかもしれないが― 顎に手を当てて考え始める。 「もうちょっと若いの。それなりに年くってるけど若い…」 と、そんなクレアの呟きに、フォーラとファータがぽんと手を打って声を合わせた。 「「オーディーさんは!?」」 「よし、きたァ! 行ってみよう!」 二人の提案にガッツリ乗ってきたクレアに引き連れられ、チビたちは再び 『家』の廊下を猛ダッシュで駆け始めたのだった。 ドタドタドタという喧しい4つの足音と共に、 「「「「「オーディーさ――――――――――――ん!!」」」」 という雄叫びを響かせ、オーディーの居る部屋の扉をぶち壊しそうな勢いで 押し開く。 「え!!? な、何!?」 いきなりの強襲に、机に座って本を読んでいたらしいオーディーはイスから 転げ落ちそうになる。何とかそれを堪えて扉の方を振り向くと、そこには 息を切らせ、目を血走らせたチビたち4人が居た。 再度「どうしたんだ?」と訊ねようと開いた口は、クレアの とんでもない台詞によって言葉を吐き出す事はなかった。 「アズマさんの過去の女関係を教えて!」 「はあァ!!?」 思い切り訝しげに眉をよせたオーディーを見て、クレアの言葉がまずかった ことに気付いたトーラが慌てて言い直す。 「あのね、5年くらい前にアズマさんに好きな人っていなかった?」 他の3人よりも幾分落ち着いているらしいトーラの分かりやすい問いに、 オーディーは応じる気になったようだった。 「5年前ー? うーん。って言っても、アズマの恋愛対象になる女の子 ってそういないしなァ。チビばっかだし…」 5年前と言えば、アズマはまだ13、4歳だ。あの頃、アズマの 恋愛対象と成りうる年齢の女の子は、このcityにはあまりいない。 そもそも、このcityの男女比が2:1なのだ。女の子の方が断然少ない。 「アズマさんと同い年くらいかちょっと年下の女の子!」 クレアの言葉に、フォーラとファータも続く。 「黒髪で可愛い子!」 「ミニスカで細い子!」 「えー。同い年か年下…ユイかスカイか…あそこら辺だろー??」 アズマと近い年齢の女の子の顔を一人一人思い浮かべてみるが、 恋愛がどうとか言った話になった記憶は全くない。 「別にそんな話はなかったぞ」 「違うの! 今、居ない子で」 クレアから返されたその言葉に、オーディーは首を捻る。 「居ない?」 「過去に、ちょっとだけ居た女の子とかいないの?」 トーラのその問いに、答えは迷うことなく返された。 「いや。俺の知る限りじゃあ、このcityから出てった子なんていないぞ」 「「「「―――…?」」」」 顔を見合わせ、4人はそろって首を傾げた。 そんなチビたちの様子に、オーディーも首を傾げる。 「…そっか。ありがと」 納得のいかない顔をしているものの、それ以上質問が重ねられる事はなく、 クレアがオーディーに礼を述べる。そのまま、そそくさと4人は彼の前から去っていってしまった。 「……何なんだ? アイツら…」 呟いて、再度オーディーは首を捻ったのだった。 オーディーに別れを告げた4人も、彼と同様に、再度首を捻っていた。 「どォゆーことよ??」 「「さあ」」 納得がいかないと唇を尖らせるクレアに、フォーラとファータも 眉根を寄せながら首を傾げる。 「あの日付、間違ってんのかなァ」 「あ―――、気になるぅ!!」 腕組みをして唸っているトーラの隣で、クレアが頭を掻きむしりながら喚いている。 そんなクレアに、トーラは苦笑しながら彼女の肩を宥めるように叩く。 「ねえ、もうムリだよ。やめようよ。ね?」 だが、その言葉に返ってきたのは、 「何言ってんの! あの女がアズマさんの何なのか気にならないの!?」 という、もの凄い形相をしたクレアの言葉と、 「「なる!!」」 というフォーラ&ファータの力強い頷き。 「でしょ!? トーラもそうよねえぇぇぇぇ〜??」 自分の賛同者がいることに元気を取り戻したのか、クレアは 再びギラギラと瞳を輝かせつつ、トーラに問う。 だが、トーラに「イエス」以外の選択肢を与えていない、明らかに脅しの入った問いだったが。 「ノー」という答えは許されない事なのだと悟ったトーラは、 「――うん」 と頷くしかなかった。 「ほぅら。これはもうトコトン調べるしかないわー!」 再びノッてきたクレアに水をさすわけではないが、 溜息交じりにトーラが口を開いた。 「って言っても、どうすんの?」 「…」 「ユイ姉も知らないとなると、もう誰も知らないんじゃないの?」 尤もだ。 クレアもそう思ったのだろう。さすがに黙り込んでしまった。 その代わりに、フォーラとファータの二人が、ブーイングをトーラに返す。 「え――。じゃあ、永遠のナゾー!?」 「気になるぅ〜!!」 ぶーぶー文句をたれる二人をトーラが宥めていると、 「まだよ!」 「「「え?」」」 唐突にクレアが声を上げた。3人の動きを一瞬で止めるほど、 強い意志のこもった声だった。そして次に告げられた言葉に、 3人は揃って首を捻ることになる。 「まだよ! まだボスが残ってるわ!!」 真っ先に抗議の声を上げたのはトーラだった。その顔には 苦笑が浮いている。 「って、ボスは真っ先に除外したじゃない」 そう。 あんな朴念仁に恋愛相談するバカはいないわ。 ときっぱりすっきり言い切ったのは誰でもないクレアだった。それが 何故今頃になってまたボス・ユキムラの名前を出したのだろうか。 しきりに首を捻っていると、クレアが自信満々に口を開いた。 「もしかしたら、ってこともあるでしょ! そーゆー方面に疎い ボスにだからこそ言えることだってあるじゃない!」 そんな、根拠のない自信を溢れさせているクレアの言葉に光明を見いだしたかの如く 表情を輝かせたのは、いわずもがな、フォーラとファータだった。 「よーし、行くわよ!!」 「「イエッサー☆」」 どうやら自分に賛同者がいる事を悟ったクレアは、意気揚々と二人を連れて歩き出したのだった。 |