「妹ォ??」
 訝しげに眉を寄せ、鸚鵡返しに繰り返すユイの前には、 トーラ&クレア&フォーラ&ファータという4人のチビたちが居た。
 いきなり「「「「アズマさんに妹っている!!?」」」」と質問を投げかけてきたかと思えば、 何故かキラキラといやに期待のこもった瞳で自分を見上げてくる。 これを訝らずにいられるだろうか。
「アズマさんって妹いたりしない?」
「もしくはお姉さん」
 再度、問うてきたクレアに付け加えるのはトーラ。
 早く答えて! と訴えてくる4対の瞳に負けて、ユイはその質問に答えるべく、 首を左右に振って見せた。
「いないわよ。アズマさん、一人っ子だもの」
 と、途端に4人ががっくりと肩を落とす。
 いったい、何なんだろうこの子たち。とユイが首を傾げていると、 ポツリとクレアが洩らした。
「うーん。妹説は違うのかー」
「妹説??」
 何!? その説って!!? と、更に追求してみようかとユイが口を開く前に、
「ううん! 何でもないの! じゃあね」
 と、クレアを先頭に、チビたちは一目散に逃げていってしまった。
「…何なの? あの子たち」
 一人取り残される形となったユイは、しきりに首を捻るしかなかった。
 その頃、脱兎の如くユイの前から逃げ出した4人はというと、 『家』の廊下をあてどもなく歩いていた。
 姉妹説が違ったとなると、次は恋人説が有力だ。
 そう結論付けたものの、いったい誰に訊いたらいいものか。と、 思案を巡らせているクレアに、フォーラとファータが声をかける。
「「ねぇ」」
「どうしてユイちゃんに恋人説の方も確かめてみないの?」
「知ってるかもしれないよ?」
 つい、クレアと一緒にユイの前から逃げてしまったのだが、 あとから考えてみれば、ユイにもっと訊いておけば良かったのではと思ったらしい。 このcityで、アズマと一番付き合いが長く、そして深いのは彼女だ。 もっと色々な情報を持っていたかもしれない。もしかしたら、あの写真を見せれば、 何か分かったかもしれないのに。
 そんな二人に、クレアは、
「ダメ!」
 と、彼女らの考えを一蹴する。
「どうして?」
 問い返したのはトーラだ。
 クレアは、フォーラとファータからトーラに視線を移し口を開いた。
「私が思うに、ユイ姉はアズマさんに惚れてるわ」
「「え!? ウソ!!?」」
 途端にがっついてきたのはフォーラとファータだ。
「私の勘はよくあたるのよ」
「そうかなー」
 胸を張ってみせるクレアに、トーラが首を傾げる。
 そんなことお構いなしにクレアはフォーラとファータに言いつのる。
「だから、ユイ姉にアズマさんが可愛い女の子の写真持ってた、なんて言えないでしょ?」
「「そうね」」
「じゃあ、今度は恋人のセンで調査開始!」
「「イエッサー☆」」
 大真面目な顔で頷いているフォーラとファータを横目で眺めつつ、 トーラは小さく溜息を洩らしながら三人に問う。
「でも、じゃあ、誰に訊くの?」
 その問いに、三人が固まる。
 実は、ユイに訊けば全て分かると心のどこかで思っていたのだ。 ユイなら全て知っていると。だが、そのユイからは答えを得ることは出来なかった。
 このcityでユイ以上にアズマのことを知っている人間がいるだろうか。 いたとしても、四人にはそれが誰かなど分からない。
「…どうしよう」
「行き詰まっちゃったね」
「「あ」」
 急に声を上げたフォーラとファータに、考え込んでいたクレアとトーラが彼女らに視線を移す。 「どうしたの?」と視線で問えば、
「「ボスは?」」
 ユキムラなら知っているのではないかと思ったのだ。 ユキムラが最初からこのcityの住人でなかったことは知っている。 けれど、アズマとの関係が深いものだということは見て取れる。 もしかしたら、何か知っているかもしれない。と思い提案したのだが、即、
「却下」
 クレアに一蹴される。
「「何で?」」
 問い返すと返ってきた答えは、
「あんな朴念仁に恋愛相談するバカはいないわ」
 というお答えで、
「「「成程!!」」」
 納得する答えは三つ分。
 さっくりと三人の同意が得られた所で、
「「「「うーん。どうしよう」」」」
 ふりだしに戻る。
 と、次に「あ」と声を上げたのはトーラだった。
「ねえ、クレア。写真、もう一回見せて」
「写真?」
「そう」
「…はい」
 唐突なトーラの要求に、一瞬戸惑ったものの、 クレアはスカートのポケットに収めていた写真を取り出し手渡す。
 写真を受け取ったトーラはそれをじっくりと眺めたあと、口を開いた。
「よし。グリフ兄ちゃんのところに行こう」
 このトーラの提案に、女衆3人はそろって首を傾げる。
「「グリフのお兄ちゃん??」」
「グリフさんはこのcityに後から来た人でしょ? 知ってるわけ−」
「ここ、見て」
 クレアの言葉を遮りトーラが写真を指差す。その指の先にあったのは、
「日付?」
 その写真が撮影された日時が記されてあった。そしてその日付から考えて、
「もう、グループが一つになってる時期だよ。んで、この時に大人はグリフ兄ちゃん一人。 アズマさん、恋愛相談してたかもしれないよ」
 というトーラの推理に、
「ナイス、トーラ!」
「「トーラくん、偉い!!」」
 と、賞賛の声があがる。
 当時、リーダー・グリフォードの下、ナンバー2の座にユキムラと共に君臨し、 グループのメンバーを守る立場にいたアズマが、恋愛の悩みを相談できる相手と言えば、 やはり頼れる大人、そしてリーダーだったグリフォードではないか。
 トーラから写真を引き受けたクレアは「よくやった!」と彼の頭を撫でたあと、 意気揚々、グリフォードの元へと足を向けて言った。
「よし、じゃ、行くわよ!」
「「「イエッサー☆」」」
 これで、この写真の少女の謎が解ける!! 
 クレアに続く3人も、足取りは軽やかだった。




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