5.命令を下す(motherとして認定された方にしか命令を下すことは出来ません)
@ドールを起動させます。
Amissionを音声によって入力します。(これもmotherのvoiceでなければいけません)
Bセンサーに手をあて、指紋を照合します。
これらのプロセスを経て、その命令がmotherからのものであることをドールが認識すれば、命令を実行します。



「例えば、先程のミサイルで話をしようか。ミサイルで何かを攻撃したいと思った時、 まずmotherの・・ユキムラくんの声で、『どこどこに向かってミサイルを発射しろ』 と言った具合に命令を入力・・つまり、この子たちに聞こえるように言えばいい。 でも、それだけではまだ実行には移されない。声は、簡単に作れるからね。 音声入力の後に、センサーに手を当てて、 それがmotherのものだとこの子たちが認めれば、 与えられた命令を実行に移すようになっている」
 と、そこで言葉を切った都筑は口を閉ざし、何かを考えていたようであったが、 すぐにまた口を開いた。
「ここで、もう一つ話しておかなくちゃいけないことがあるんだ」
 そう切り出した都筑に、三人は何だ? と首を傾げ、彼の言葉を促す。
「さっき・・・手についての説明の所に書いてあった事を覚えているかい?」
 都筑の言葉に、三人は説明書に視線を移す。



■手
普通の手。但し、使い方によってはミサイルが発射される事もある。要注意。



 彼らと同様に、都筑も説明書に視線を落とす。
「使い方によっては、とあるね? これは、命令の実行の所でも話したように、 motherに命令されたら、という事だ。そして、もう一つ見て欲しい所がある」
言って、都筑が指差したのは、



■足
100mを1分と7秒で走ることが可能。ある意味スゴイと思いませんか?!



 ここ。
 これがどうしたのかと視線で問うてくる三人に答えるため、 都筑は口を開いた。
「普段はそうなんだ。この子たちは足が速くない。だが、 missionが与えられるとこの子たちは、 さっき言ったように200km/hで走る事が出来る」
「オレが『速く走れ!』って命令したら、ってことか?」
 都筑はユキムラの言葉を、軽く首を振る事で否定する。
「いや、違うんだ。この子たちは、missionが与えられれば、 そのmissionを完遂するために、自分の意志で200km/hで走る事が出来る。 同様に、missionを完遂するために、自らの意志で腕からミサイルを発射させる事だって出来る。 つまりこの子たちは、missionの内容に関係なく、missionが与えられれば・・・ 何て言えばいいのかな。まあ、簡単に言うと、戦闘モードに入るんだよ。・・分かるかな?」
 自分の言っていることが彼らに伝わっているのかどうか 心配になって問うてみると、ユイが首を縦に振って肯定を示す。
「『ミサイルを発射しろ』って攻撃の命令をしなくても、例えば、 『お使いに行って来て』って命令でも戦闘モードに入る。 200km/hでお使いに行ってくれたりするってこと?」
「「・・・・・・・」」
 ユイの例えに、フォーラとファータが200km/hでお使 いに行く姿をリアルに想像したユキムラとアズマは閉口する。 便利かもしれないが、はっきり言って、怖い。怖すぎる。
「そう。そう言う事だね。・・・もしも、目の前に邪魔な物があれば、 ミサイルで壊して行く事もあるだろうね」
 付け加えられた都筑の言葉に、今度は冗談抜きで閉口する。
 顔色をなくす三人に、都筑は静かに言った。
「この子たちに、安易な気持ちでmissionを与えてはいけないって事 、よく分かったみたいだね」
 首だけを動かし、彼らは肯定の意を示した。
 それを認めた都筑は、更に説明を続けるため、口を開く。
「次は、その命令の中断と変更についてだ」



6.命令の中断、及び変更
原則としてドールは与えられた命令を何が何でも遂げようとします。 それを止める場合には、新たに『実行中の命令をやめろ』という命令を与えるか、 ドールそのものの電源を切るか、心臓を止めてください。変更の場合も同様です。



「一度与え、実行に移されたmissionを、この子たちは何があって も成し遂げるようになっている。たとえmotherが途中で気が変わって 、やめろと言っても、 この子たちは止まらない。止めるためには、停止させるしかないが、 それは不可能だろうね。まあ、命令にもよるがね。例えば、 『このグラスにお茶をついできてくれ』 と命令したとしよう。そうするとこの子たちはグラスを持って立ち上がり、 歩き始める。でも、途中で気が変わった。お茶ではなく、コーヒーを淹れてもらいたい。 そういう時には、この子たちの後を追っていって『このグラスにコーヒーを淹れてくれ』 と音声入力し、もう一度、センサーに指紋を照合させる。そうすれば先程のお茶を淹 れてこいという命令は破棄された事になる。スイッチを切るという方法もあるが、先にも述 べた通り、スイッチを切ってしまうと全てDATEがなくなってしまうからね。あまりお勧めしない。だが・・」
「だが?」
 唐突に言葉を切った都筑に、アズマがその先を促す。
「この例えでは、命令が『お茶を淹れてこい』っていう簡単なものだったけど、 もしもこの子たちに下した命令が、この君たちの住むcityを壊せ、というものだったら??」
「「「・・・」」」
「どうしても止めなければならないだろう? でも、この子たちはすぐさま攻撃を開始するだろう。ミサイルを使うかもしれないし、 素手で建物を壊し始めるかもしれない。そんな時に、この子たちに近付いてセンサーに触れることはできない。 同時に、スイッチを切ることも出来ないだろう。そうなった時、残された道は・・・何だか分かるかい??」
「・・・オレが死ねば止まる」
 答えたユキムラに、都筑は静かに頷いて見せた。
「そうだ。そういう手もあるんだ。一応、覚えておいてくれ」
「・・・・分かった」
 しばしの沈黙を挟んではいたが、はっきりとユキムラは頷いて見せた。



最後までご精読いただき、誠に有り難う御座いました。



「さあ、だいたいのことは話し終えたかな」
 説明書から顔を上げた都筑は、三人を見回して問う。
「何か、質問はあるかい?」
 僅かな沈黙の後、三人は首を横に振った。
一度にあまりにも沢山のことを教えられた所為で、少々頭が混乱しているのだろうか。 疑問も何も思い浮かばない。
 そんな三人に気付いているのだろう。都筑は何も言わなかった。沈黙をその場に残し、 そろそろ温くなってきたお茶に手を伸ばす。
 相変わらず、話の中心に居るはずのフォーラとファータは無表情に前だけを見つめている。
 アズマとユイは、そんな彼女らを見つめていた。 ユキムラはと言うと、難しい顔をしてフォーラとファータを見ている 二人の横顔を少々心配そうに見つめていた。
「やっぱり駄目だ」
 と言い出しそうな雰囲気を二人が醸し出していることに気付いたのだ。 彼らがその言葉を口にする前に、ユキムラは二人の不穏な気持ちを宥めるべく殊更明るい口調で言った。
「よーし。コレでコイツらの事もよく分かったナ。うんうん。大丈夫大丈夫。 もしも何かあったら、オレが死ねばいいんだから! な?」
((な? じゃねーよ!!))
 二人の不穏な雰囲気を宥めようと口にしたその言葉は、 更に二人の不安な気持ちを煽っただけに終わった。
「「だからなおのことダメなんじゃ──────────ッッ!!」」
 ズズズイ! っと恐ろしい顔をして迫ってくる二人に、ユキムラは身を引く。 が、すぐにソファの背もたれに逃げ道を塞がれた。
「は・・はは ま、まあまあ、な?」
「笑って誤魔化しても駄目だ!!」
「そうよ、ボス! そんな簡単に死ぬとか言わない!!」
「わ、分かった分かった! オレが悪かったって。だからそんな凄まじい形相で迫るのは勘弁してくれよ」
「誰がこんな凄まじい形相にさせてると思ってるのよ!?」
「全くだ! 俺なんていっつも問題を起こしてくれるお前の所為で眉間の皺が取れなくなってんだぞ!!?」
「え!!? そうなの!?」
「そうだ。見てみろ、コレ! 誰の所為だろうな〜、ああ??」
「オレですオレです。ごめんなさい〜(>_<。)」
 と、三人の会話に介入したのは、
「すまない!!」
 と、頭突きをかますのではないかと思われるスピードで、机に手をつき頭を下げた都筑だった。
 三人は一様にギョッとし、固まる。
 アズマに胸ぐらを掴まれたままのユキムラ。ユキムラの胸ぐらを掴んだままのアズマ。 アズマに加勢しようとユキムラに手をのばしかけていたユイ。
 そんな中、いち早く驚きから覚めたのはユイだった。
「ちょっと、都筑博士!!?」
 どうしたんですか、と問うユイに、都筑は更に頭を深く下げた。
「本当に、無理なことを頼んでいるのは分かっている。でも、今の私には君たちしかいないんだ・・・!」
 都筑の切実な言葉に、三人は顔を見合わせる。
「出会ってまだ数時間しか経っていない君たちに頼むには、 本当に大変なことだというのは分かっているんだ。けれど、 出会ってまだ数時間だからこそ、君たちに頼みたいんだ!」
 新型兵器を狙っているラジスタの人間は、まだ都筑とこの少年たちが出会っていることを知らない。 同じ研究所にいた部下、同僚たち、昔の友人、遠い親戚。 どれもラジスタの人間の手が回っている。だから、今は彼らに頼むしかないのだ。
 頭を下げ続けている都筑に、ユキムラは静かに声をかける。
「・・・なあ、何でオレたちなんだ? 確かに知り合って数時間足らずだから、っていうのは分かる。 でも、どうして知り合って数時間足らずのオレたちに、大切なコイツらを預けるんだ?」
 自分たちのような若輩者に預けるのではなく、他のcityに行って、 もっと信頼の出来る人物を捜すことだって出来るのだ。それを、彼はしようとしていない。 出来ないからとそれを諦めているわけでもない。ただ、とにかく彼は自分たちを信じようとしているのだ。 ユキムラには、それが不思議でならない。
「もしかしたらラジスタの人間に引き渡したりするかもしれないんだぞ? なのに、どうして信じられる?」
 ユキムラの言葉に、都筑はようやく顔を上げた。その表情は、意外にも穏やかなものだった。
「・・君なら信じられる。信じてもいいと思ったんだ。それが理由じゃあ、不満かい?」
 ユキムラは、探るような瞳でしばし都筑を見つめていた。 都筑も、穏やかな表情のまま、ユキムラを見つめ返していた。
 アズマとユイの見守る前で、沈黙は不意に破れた。
「・・・いや、満足だよ」
 その理由だけで十分だ、とユキムラは笑ってみせる。
 思わずそろって溜息を洩らしたのはアズマとユイだった。 が、その顔に浮かぶのは、潔い諦め。もう自分たちが何を言っても無駄だと、 それを悟った表情。けれど、それは決して投げやりなものではない。最初から、 自分たちのボスがこうするであろうことを知っていたのだ。そして、こうする彼こそが、 自分たちの認めたリーダーなのだということも。
「アズマ。ユイ」
 肩を竦め合っている二人の仲間の名を、ユキムラは静かに呼んだ。
 振り返った二人に向けられているのは、いつも通りの彼の笑みとその瞳に宿る真っ直ぐな意志。
「オレはコイツらを預かる」
 はっきりと、ユキムラは言い切る。改めて伝える。
「確かに危険なことかもしれない。でも、預かる」
 それまで黙ってユキムラの言葉を聞いていたアズマは、僅かな逡巡の後、彼に問うた。 これがきっと、最後の問い。
「・・このcityにいるのは、俺たちだけじゃない。ココにいるのは、ほとんどが子供なんだぞ。 それが分かっていて、それでも危険を背負い込むのか?」
「・・・」
 途端に翳りを帯びたユキムラの表情に、少々意地悪な質問だったかもしれないと、 アズマは口にした後に思った。けれど、それが分かっていても尚、言っておかねばならないことだった。
 このcityに住むのが、自分たちだけならばいい。けれど、そうではない。 自分たちが住むこのcityには、たくさんの子供たちがいる。 親も、頼る者もないか弱い子供たちが。そんな子供たちをこのcityに招いたのは自分たちだ。 守ると決めたのは自分たちなのだ。そんな自分たちが、危険を招くかもしれないこの少女たちを cityに置くことが、はたして許されるのか。 そして、もしも子供たちに危険が及んだとき、はたして守りきれるのか。
「・・・守るさ」
 僅かな沈黙の後、ユキムラは言った。
「ココのみんなは、守る」
 ユキムラも分かっている。自分がこのcityに危険の種を持ち込もうとしている事に。 その種が芽を出し、花開いたとき、未だ自身を守ることすら出来ない子供たちが真っ先に危 険に晒されるであろうことも、勿論分かっている。
 このcityに住む者たちは皆、家族だ。自分を支えてくれる兄、 姉たち。可愛い弟、妹たち。大切な、大切な仲間だ。 彼らに危険が及んだとき、自分は喜んでこの身を投げ出すことだって出来る。 例えそれを、残される者たちが望んでいないとしても、このcityのために、 命を賭することだって厭わない。何が何でも、このcityと家族を守ってみせる。
 そして、
「コイツらも、守る」
 cityの事を第一に思うならば、この少女たちを預かるわけにはいかない。
 だが、都筑に彼女らを突き放すことは出来なかった。
 ───だって、同じじゃないか、自分たちと。
 彼女らは人間ではないけれど、自分たちと同じだ。親と一緒にいることが叶わない子供。 このcityの子供たちと、同じではないか。
 かつては自分も親を亡くし、彷徨い歩いていたところを、このcityの先のボスに拾われた。 そして、とにかくその日その日を生き延びることに必死だった生活が一変した。
 突然与えられた家族の温かさと、あの時差し伸べられた手の温かさを、今でも鮮明覚えている。 大切に、自分の中に収めている。そして今では、その温かさを与える側になったのだ。 必要としてくれる者には、惜しむことなく。
「みんな守る。それでいいんだろ?」
 しばしユキムラの瞳を見つめた後、アズマは笑みを零した。
「・・・・よし」
「ココのみんなは守る。その為に必要ならコイツらを見捨てる覚悟は出来てる」
 なんて答えが返された場合の反応も用意していたのだが、それは必要なかったようだ。
 やはり、リーダーにはそうした残酷な決断も必要とされるときがあるだろう。 けれど、自分たちの認めたこのリーダーに、そんな決断を下しては欲しくなかった。 もしもそんなコトを言おうものなら、一発殴る予定だった。
(・・たいがい俺も甘いな)
 リーダーとしてしっかりしろと言いつつ、彼には、こうであって欲しい。 今のまま、何処か頼りなさげで、優しすぎて、それでもこのcityのリーダーにと望まれる、 そんな彼でいて欲しいと願っている自分がいることを、アズマは知っていた。 そして、彼がそんなリーダーでいられるよう務めるのが、自分の・・・ナンバー2の仕事だとも思っている。
 アズマの笑みで全てを悟ったユキムラは、彼もその顔に笑みを零した。
「よし。決まりだな」
 言って立ち上がったユキムラは、先程から黙り込んだまま前を見つめている少女たちの前に行く。
「今からお前たちはオレたちの家族だ」
 見上げてくる二対の瞳が、僅かな驚きを示す。
 そんな瞳を代わる代わる見つめ返し、ユキムラは彼女らに微笑みかける。
「コレからよろしくな、フォーラ、ファータ」
 言って頭を撫でてやると、少女たちは互いに顔を見合わせ、誰が見ても分かるように微笑んだ。
「・・・フォーラ、ファータ」
唐突に、けれど二人を驚かせないよう穏やかに声をかけたのは、 今まで黙ってその様子を見つめていた都筑だった。 その瞳は、優しく細められている。娘を見る、父親の目だ。
「覚えておいで」
 その言葉に、フォーラとファータはそろって首を傾げる。
「ここ」
 言って彼が触れたのは、自分の胸。それを見た二人は、彼の動作を真似るように、自分の胸に手を当てる。
「ここが、温かいだろう? これが、嬉しいっていう感情だ」
「「・・・嬉しい?」」
「そうだ。素敵な感情だ。だから、覚えておいで」
 フォーラとファータは視線を交わした後、都筑の言葉を反芻するように呟く。
「・・ここが」
「温かい・・」
「「嬉しい!」」
 赤ん坊が言葉を覚えるのに似ている。
 その微笑ましい様子を見守っていたユキムラは、二人が自分の腕を引いた事に気付き、彼女たちに視線を合わせる。
「何だ?」
 優しく問い返すと、息せき切った様子でフォーラが口を開いた。
「あのね、ママ! フォーラ、今、嬉しいの!」
「ファータも! ファータも嬉しいの!」
「そうか。オレも嬉しいよ」
 そう答えてやると、二人は更に笑みを零す。それは本当に咲き零れんばかりの笑みで。 零れたこの笑みを、いつでも受け止めてやろうと、胸に誓う。
「・・この子達は、真っ白なんだよ。感情の名前も知らない」
 初めて覚えた感情の名を、嬉しそうに繰り返すフォーラとファータの姿を、 目を細めて見つめながら、都筑は口を開いた。
「だから、どうか色々な事を教えてやって欲しい」
「任せてくれ!」
 胸を張って答えるユキムラを尻目に、アズマは大袈裟に肩を竦めて見せる。
「不安だなァ。そもそもコイツこそ何も知らないような気がするぞ、俺は」
「知ってるっての!」
「大丈夫よ、アズマさん。私が見張っておくから」
「うわ、ユイまで・・! オレってばそんなに信用ないのか!?」
「この子たちの未来がかかってるのよ!? ボスなんかに任せてたらどんな子になるか・・!」
「まったくだ」
「ひどいぞお前ら─────!!」
 彼らの賑やかなやりとりを、都筑は黙って見つめていた。
 明るい若者たちだ。
 戦争で親、家族を亡くし、それでも懸命に生き、 そして同じ身の上の子供たちを守って生きている。 それは、決して自分と同じ目に遭っている子供たちへの同情ではない。
 そもそも、彼らの意識の中に、子供たちを守っているという意識があるのだろうか。 彼らを見ていると、それを疑問に思う。良い意味で、だ。
 彼らは守っているだけではない。彼らに従う少年たちも、守られているだけではない。 互いに、守り、守られ、生きている。それは、絶対の信頼の下でしか成り立たない、 脆い・・・けれど、理想的な関係だろう。そのことを思うと、
「・・・あともう一つ、言っておかなくちゃならないことがあるんだ」
 都筑は我知らず口を開いていた。
 何だ? と彼らに視線を向けられて初めて、都筑は自分があまりにも迷い無く発した言葉に戸惑いを覚えた。 だが、もう何でもないでは済まされない。済ませる気もない。
「黙っていようかとも思ったんだが・・・」
 そう。最初は黙っていようかと思ったのだ。けれど、それは叶わなかった。
「何ですか?」
 突然穏やかな表情を消した都筑の、表情同様、いやに真剣な言葉に、ユイが静かに問い返す。
「・・この子たちの停止方法、覚えているかい?」
 ユイの問いに答える前に彼らに問うと、三人は不思議そうな顔で顔を見合わせた後、 ユキムラが口を開いた。
「motherがスイッチを切るか、motherが死ぬか、だろ?」
「そう。でも、もう一つ方法があるんだよ。・・出来れば、使う事がなければいいと思っているよ」
「・・・何なんだ、そのもう一つの方法って」
 焦らすように言葉を濁す都筑に、アズマが先を促す。
 僅かな間をおいた後、都筑は一息に言った。
「この子たちの中に設置してある自爆装置を作動させる」
「─────」
「「自爆装置!!?」」
 重なったのはアズマとユイの声。
「そう。この子たちの・・ちょうど心臓のあたりかな。 そこに設置してあるんだよ。その自爆装置が、唯一この子たちを壊す事が出来るものなんだ」
 三人はそろってフォーラとファータの方に視線を移す。彼女たちは、何も反応を示さなかった。 話の内容が分かっているのかいないのかも窺えない。また彼女らは、無表情に戻っていたから。
「もしも何かあったとき、どうかこの子たちを壊して欲しい。 この子たちが暴走したり、君たちに牙をむくようなことがあったら。 そして、ユキムラ君が、死ななくてはいけなくなったときには、この子たちを、壊して欲しい」
「─────・・・」
「その方法を教えておくよ。この子たちの────」
「いい」
 都筑の言葉を遮ったのは、ユキムラだった。
「え?」
「知らなくていい。コイツらを壊すような事にはならないし、させない」
「でも、ユキムラくん!」
 頑固にユキムラは首を横に振り、繰り返す。
「だから知らなくていい。オレはコイツらを守るって決めたんだ」
 まだ何か言おうとしている都筑をユキムラはソファから立ち上がる事で制した。 フォーラとファータの前まで歩を進めると、二人の手を取る。
「もう遅いし、寝ような?」
「ユキムラくん!」
 咎めるように名前を呼ばれ、ユキムラは都筑に視線を向ける。そして、快活な笑みを浮かべて見せた。
「知らなくていい」
「・・・」
 これ以上彼には、何を言っても無駄だろう。その事を都筑は悟った。 「う〜ん。じゃあ、一応聞いておこうかな〜」などと、 そんな逃げ道を用意するようないい加減なものではなかっのだ。 フォーラとファータを守ると決めた、彼の誓いは。
「行こうか」
 手を引くと、フォーラとファータはおとなしくついてきた。それを認めた都筑は、三人を振り返る。
「じゃあ、ちょっと部屋までつれてってくる」
 そのままユキムラは、二人の少女を連れ、ロビーを出て行った。




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