「そうだね、じゃあ、説明書に沿って説明しようか」 テーブルの上に置かれた取扱説明書の覗き込みながら、都筑は説明を始めた。
「ここら辺は適当だから、あまり気にしなくていいよ」 「・・・・・・・・・なら、書くな」 「まあまあ、アズマさん」
「この人工知能は、ドールに組み込まれていたものに、更に改良を加えたものだ。 ものを教えれば、人間と同じように話したり考えたり、行動できるようになる」
「さっきも言ったように、この子たちには高性能の人工知能が組み込まれてある。感情も覚えることが出来るはずだ」 「ちょっと待って。motherって、何??」 ユイの問いに、都筑は「う〜ん」と唸った後、 「motherについては、また後で話すことにするよ」 そう言って、話を進めた。
「「「6125GB??」」」 聞いたこともない単位に、三人が首を傾げる。 「う〜ん。とにかく、アホか────!! ってくらい沢山の量だ。 一生かかってもいっぱいになることはないだろうね。ここで気を付けておかねばならないことがある。 このDATE・・この子たちが目覚めてから覚えた記憶は、電源を切ると消えてしまう。 つまり、またゼロから教え直さなくてはいけなくなるんだ」 そう説明した後、都筑はフォーラとファータに向かって訊ねた。 「フォーラ、ファータ。この人の名前は??」 そう言って彼が指差したのは、 「「アズマ」」 「ピンポ〜ン☆ ・・・と言う風に、今は覚えていても、電源を切ってしまうと、 君の名前は忘れてしまうんだ。だから、気を付けてね」
「ほら、ここだよ」 都筑は隣に座っているフォーラの首の後ろを指差す。 言われた通り、フォーラの後ろに回った三人は、髪の毛に隠れるようにしてそこにある、 黒い小さなボタンを見つける。一見すると、黒子のようだった。スイッチには決して見えない。 これも、都筑の狙いなのだろうが。 電源スイッチを三人が見つめていると、何を思ったか都筑が、 「えい」 とスイッチを押した。 「「「えッッ!!?」」」 驚いたのは三人だ。 それも当然。つい今し方、 「電源を切ってしまうと、新しく覚えたDATEが消えてしまうのだ」と教えたのは都筑本人。 その彼が電源を切ったのだ。何を考えてるんだ、このおっさん。と、誰もが驚く。 「おいおいおい、切っていいのか??」 眉を寄せるユキムラに、都筑は平然と言ってのけた。 「いいよ?」 「いいんかい!!」 思わずつっこむアズマに、都筑は更に続けた。 「後にも書いてあるけど、このスイッチはね、私が押しても駄目なんだ。作動しないんだよ」 「「「??」」」 「アズマくんでも駄目だ。彼女でも、やはり駄目だ。でも・・」 「え? オレ??」 言葉を切った都筑の視線が自分に向けられていることに気付いたユキムラは、目を丸くする。 「このスイッチを押してon、offを切り替えることの出来るのは、motherである君だけなんだよ」 未だ顔中で「?」を表現しているユキムラに、それ以上の説明を施すことなく、都筑は言った。 「いいかい? ちゃんと覚えておいでよ?」 「は、はぁ」
「ここら辺は適当だ」 「・・あっそ」 アズマの適当な相槌で説明は次に移る。
「で、次は心臓だが・・」 と、少々・・・いや、かなり気になる文章をサラリと無視し、次の説明に移ろうとする都筑に、 「ちょっーと待って!」 ユイから待ったが入る。 「コレ、何ですか」 「いや、ものは一切食べませんと言うことだよ」 「・・じゃあ素直にそう書いてよ・・」
「次に、心臓だ。この子たちは液状の燃料を体中に巡らせている。 私たちから言えば血液が体中を巡っているようなものだ。 そして、私たちと同じようにこの子たちもその燃料が体中に行き渡らなくなると、動けなくなるんだ。 あ、この燃料は消費されたりして少なくなることはないから、補充する必要もないよ」 「なぁ、このインプットされた生命波動ってのは何だ?」 ふ〜ん。と頷いた後に、ユキムラが訊ねる。 「ああ、これは後にも書いてあるんだが・・うん。やっぱり後にしよう」
「ココだ、ココ!! かなり気になる!!!」 ユキムラの言葉に、アズマとユイも大きく頷く。 「あ〜、ここか。うん。出るんだよ、ミサイル。この大きさのcityなら二つくらい余裕で消せくらいのがね」 「「「・・・・」」」 「だが、大丈夫だ。これも後の方に書いてあるんだけど、命令しない限り絶対に発射したりしないから」
「俺的に、ココもかなり気になるんだけど・・」 「オレも!」 「あはは。その気になれば200km/hで走れるよ」 「「「ええッッ!!?」」」 「はい、次いってみよう♪」
「センサー。ユキムラくん、君は知っているはずだよ?」 「え? オレ??」 唐突に話を振られたユキムラは、自分を指差し問い返す。 「そう。君はもう触っているよ。ほら、この子たちを起こす時、君はこの子たちのどこに触れた?」 問われて思い出す。 「あ! 腕の・・あの名前!!」 「そうだ。よく思い出したね」 都筑は、うまく答えを導き出せた生徒を褒める先生の様な口調で言うと、それからフォーラの右腕を取った。 「ここだ」 そう言って三人の前に差し出されたフォーラの腕、正確には肩の辺りに彼女の名前が刻まれてあった。 一見すると、刺青のようにしか見えないが、ここがどうやらセンサーになっているらしい。 「ってコトは、コイツらは、ユキムラの指紋と生命波動をmotherとして認定したってコトか??」 「その通り。じゃあ、motherの説明に入ろうか」 言って都筑は *2 の部分を指でさした。
「読んだかな??」 しばし間を取った後、都筑は訊ね、三人が頷いたのを認めると詳しい説明を始めた。 「先程、アズマくんが質問してくれた答えも、書いてあっただろう? そう。 この子達の心臓を動かす為にキャッチし続けなければならない生命波動は、 motherのものなんだ。つまり・・」 「お、オレってことスか」 「その通りだ。停止させることが出来るのも、と書いてあるだろう? これも、先程電源スイッチの時に説明したね? 電源を切ることが出来るのも、 motherである君だけだ。そして、腕からミサイルを発射させ る命令をこの子たちに出来るのも、君だけだ」
「ここはもう大丈夫だね。じゃあ、次に、使用方法を教えよう」
「これはもういいかな? ユキムラくんはもう分かっているね。 ここのセンサーに手を当てて、 名前を言うだけだ。これでこの子達は目覚める」
「これも、もういいかな? センサーに手を当てて名前を言う。 そうするとこの子たちはその人物をmotherとして認定する」 「あ、だから最初にコイツら、オレのことママって言ったのか!」 「その通り」
「motherは変更することが出来る。そのやり方についても説明しておこう。 まず、この子たちを停止させる。つまり、ユキムラくんが電源スイッチをoffにする。 それから、次のmother候補・・じゃあ、お嬢さん。えっと・・」 「ユイです」 「じゃあ、ユイさんが次のmother候補としよう。 ユキムラくんに電源を切ってもらった後、ユイさんがこの子たちを起動 ・・この子達のセンサーに触れ、名前を呼べばいい。そうすればこの子達は再び目を覚まし、 今度はユイさんをmotherとして認める」
「この子達を停止する方法だ。この子たちは丈夫に出来ている。 それこそ『象が乗っても壊れない。鯨が乗っても壊れない。百人乗っても、だ〜いじょ〜ぶ♪』だ」 「「「・・・・・・・・(=ц=)」」」 意外とお茶目な性格らしい都筑に唖然とする三人を無視し、彼は続ける。 「そんなこの子たちを、破壊して止めることは出来ないだろう。そう。 何度も言っているように、motherが電源スイッチをoffにすればいい。 そしてもう一つ方法がある。心臓を止めればいい。 心臓は、motherの生命波動をキャッチして動いている。 それを止めるには・・・。言いたいことが、分かるかな?」 「生命波動が途切れれば・・・。オレが・・・?」 「そう。君の生命波動が途切れれば・・つまり死ねば、 この子たちの心臓はとまり、自動的に停止する」 「「「・・・・」」」 「motherは大変だってことが分かるだろう? もし、誰かがこの子たちを止めようと考えた時、狙われるのは君だ。ユキムラくん」 「オレが・・」 「君に電源スイッチを押させるか、君を殺せばいいんだから。 ・・・どうする? motherを辞退することも出来るんだよ?」 都筑の言葉に、けれどユキムラは頷かなかった。 「・・・オレは、一度決めたことは何が何でもやり通すタチなんだ!」 「そうか。良かった」 都筑はホッとしたように微笑み、次の説明に移る。 「じゃあ、次に行こうか。これは、使わないことを祈っているよ。・・今度は命令の出し方だ」 |