そこは、高い山を背後にいただき、更に周りを深い森に覆われた小さな村。 海から運ばれて来る湿った空気は、山によってその流れを遮られ、村の上空に停滞する。そしてその雲は、そこで雨を降らせる。 夏、大地を潤していた雨は、やがて、冬の訪れと共にその姿を変える。大地を白く染める雪へと。 しんしんと降り注ぐ雪に覆われ、全てが白へとその衣を替える季節。 冬。 白一色に染まる、山と、森と、村。 いつの頃からかその村は、『lily-white hamlet』−『純白の村』と呼ばれるようになっていた。 足早に去っていった秋と同じく、冬も駆け足でやってくる。 冬の冷たい空気は人々の肌を刺し、動物たちは次第にその姿を隠していく。 もうすぐ、村から出ることも叶わなくなるだろう。 雪は森の緑を白に染めるだけでなく、村から街へと続く道さえも隠してしまう。 故に、村の人たちは冬が訪れる前に、長い冬を越すのに必要な食料を蓄えておく。 冬に眠りにつく、動物たちと同じように。 パチパチと、暖炉にくべられた薪が火の粉を舞い上げる。 その音が、そのぬくもりが、凍てつく冬の寒さから人々を守っていた。 窓ガラスに四角く切り取られた空は、どんよりと重い雲を抱いている。 雪の気配。 それを敏感に感じているのか、冷たい窓ガラスに両手をつき、空を見上げる少年がいた。 すっと通った鼻梁と、形の良い唇。 ゆるい曲線を描く頬と顎の線は細く、どちらかと言えば女性的な顔立ちをしている。 肩に、頬に流れる長い髪。それは、触ればベルベットの感触をしているに違いないと、 そう思わせるほどに細く、艶やかな黒髪。 じっと空を見上げるその瞳には、純粋な少年の光がある。 雪が待ち遠しくて待ち遠しくて堪らない。そんな光。 雪によって外界から完全に孤立させられてしまうこの村に住み、雪を好む者は、そう多くない。 殊に若者に関して言えば、冬の間中、村に閉じこめられるのはまっぴらだと、 冬が来る前に村を出、春になると戻ってくる、といった生活をする者も少なくない。 そんな中、彼は違った。 「早く降らないかな…雪…」 誰しも出来ることならば雪が降らないことを祈り、そして、一日でも早い春の訪れを待つ大人達が聞いたならば、 「滅多なことを言うもんじゃないよ」 と、叱りつけたくなるような台詞を、彼は口にした。 殊に、老人にこの台詞は聞かせられない。 昔からこの村には…いや、この村を囲う森には白い精霊―雪の精霊とも呼ばれる―が棲んでいると言われ、 雪や冬のことを褒めると、彼らはその人間に好意を持ち、寄ってくるのだそうだ。 寄ってくるだけならば何ら支障はない。 だが、白い精霊は自分の気に入った人間を森の中へ誘い込み、そして、凍らせてしまう。 そんな話が昔から伝わるこの村では、彼の祖父母の世代ともなると、 頑なにその話を信じている人は多かった。 老人に限らず、この村の人たちは、冬の森で遭難者が出たと聞けばそろって 「精霊の仕業だ」と噂する。 そんな人たちの中には、「あれは精霊などという可愛らしいものではない。魔物だ」と罵る者さえいた。 そうした人たちのほとんどが、冬の森で近しい者を亡くした人たちだった。 「…精霊…」 それは無意識に唇から零れたもので、彼自身、一瞬驚いた。 「精霊か…」 もう一度、小さな声で呟く。 未だ精霊に会ったことはない。だが、その存在は信じている。 『いいかい。冬の森で誰かに出会っても、気軽に声をかけてはいけないよ。 もしかしたらその子は、白い精霊かもしれないんだから』 幼い頃、暖炉の前のイスに腰をおろした祖父に、妹と二人、いつも聞かされた話。 『白い精霊はね、大好きな人を凍らせてしまうんだよ。 だから、精霊と仲良くなってはいけないんだ。分かるね?』 『ねえ、じいちゃん。なんで精霊は、好きな人を凍らせちゃうの?』 そう訊ねると、決まって祖父は困ったようなどこか寂しそうな笑みを、 皺だらけの口許に浮かべて言うのだった。 『そうだね…何故だろうね。わしには分からんが… とても、好きで好きで仕方がないからなのかもしれないね』 返ってきた祖父の答えが、幼い頃の自分には、全く理解できなかった ―今なら理解できるのかというと答えはNOだが―。 けれど、あまりにも祖父が表情を曇らせるので、それ以上訊ねることは出来ず、 『そっか』 と、その場は頷くしかなかった。 あの、祖父の寂しそうな笑みの意味を知ったのは、祖父が亡くなってすぐ。 祖父の遺体を、祖父よりも先に亡くなっていた祖母の眠る墓におさめる時のことだった。 祖母の名の刻まれた十字架の下から出された柩。 その中で眠っていたのは、母によく似た面差しを持つ、けれど、母よりもずっと若い、綺麗な女性。 それが、祖母だった。 分厚い氷の中、眠りについたその時のままの姿で、朽ちることなく、祖母はそこにいた。 その姿は、あまりにも幻想的で…恐ろしいほど綺麗だった。 けれど、分厚い氷に包まれた祖母はどこか苦しそうで…可哀想だと、子供心に思ったのを覚えている。 母の話によると、祖母は母を産んですぐ、森の中で姿を消したらしい。 そう。冬の森で。 そして二日後、見つかった祖母は、氷の中にいたそうだ。 『きっと、白い精霊に愛されてしまったのね』 そう、母は言っていた。 そしてその時、祖父の悲しい笑みのわけが分かった。 『好きだったら凍らせたいの? 変だよ。凍らせちゃったら、もうお話も出来ないんだよ?』 思わず口をついて出そうだったこの言葉を、あの時、我慢して良かったと思う。 きっと祖父もこの言葉を、何度も何度も繰り返してきたに違いない。 そして、きっと答えを得ることは出来なかったのだろう。 白い精霊に愛された祖母。 そして… 「ケイ…」 窓ガラスについていた手を、知らず知らずのうちに握りしめていた少年は、 それに気付くと、自嘲気味な笑みを浮かべ、拳を解いた。 瞳を伏せ、息を吐き出す。少し高ぶった気持ちを鎮めるために。 「よし」 いつも通りの笑みを浮かべた少年は、不意に身を翻すと、 暖炉の側に置いてあったコートを纏い、手袋を身につける。 きっと、すぐにでも雪が降ってくるだろう。 雪が見たかった。 ガラス越しにではなく、直にその白さに…、冷たさに触れたかった。 そうすれば、胸の中で渦巻いている嫌な気持ちも、少しの間、忘れることが出来そうだったから。 「あ。っと、忘れてた」 逸る気持ちを抑えきれないのか、コートのボタンをとめることもせず家を出ようとした彼が、 不意に足を止める。 大切な物を持って行き忘れていることに気付いたのだ。 慌てて玄関からUターンする。 再び居間に戻って来た彼が暖炉の上から手に取ったのは、銀の指輪と、同じく銀の繊細なチェーン。 それを大事そうにポケットにしまい込むと、今度こそ彼は家を出た。 彼を迎えたのは、冬の冷たい空気。 瞳を閉じて、胸一杯に吸い込んでみる。 全てが洗われていく感覚。 見上げた空には、今にも雪を零しそうな雲があった。 ───早く… 心の中で、願う。 ───早く…早く降り注げ…! 「ハル!」 不意に名を呼ばれ、空を見上げていた少年は、僅かに肩を揺らす。 ハル−春。 それは、村の人たちが待ち望み、愛してやまない季節の名。 ハル−晴。 それは、少年の浮かべる笑顔によく似た空の名前。 声のした方に視線を遣ると、向かいの家から彼よりもいくらか年上だろう背の高い青年が駆けて来るのが見えた。 いやに険しい表情で駆け寄ってくる幼なじみの青年に、 ハルと呼ばれた彼は、いつも通りの快活な笑みを浮かべて見せた。 「何だ、モリか。急に大声で呼ぶなよ。驚くだろう?」 彼の言いたいことは分かっている。その険しい表情の理由も。 分かっているから、わざわざ「何の用だ?」とは問わない。 「ハル、何処に行くんだ?」 驚かせてしまったことを謝りもせず、彼は開口一番に詰問してきた。 ハルは肩を竦める。 別に、謝罪を期待していたわけわけではない。 ただ、本当にいつもいつも同じ質問をしてくる彼に、溜息の一つも零したくなったのだ。 そう。彼はいつもハルが何処かに出掛けようとするたび、こうして問うてくる。殊に、冬になれば、 「お前はいつもオレん家の前で張ってんのか!!?」 と問いたくなるほど、決まって現れるのだ。そして険しい表情で問う。 「何処に行くんだ?」 と。 「オレの勝手だろ」 そう言って突っぱねてしまうことも出来る。だが、ハルはそれをしなかった。 彼は、知っていたから。 モリがこうして毎度毎度自分の行き先を訊ねてくるのには、わけがあることを。そして、そのわけも。 …モリは恐れていた。ハルが、冬の森に行くことを。 何故なら彼も、精霊を魔物と呼ぶ人間の内の、一人だったから。 「今日は雪になるぞ。なのに、今から何処に行くんだ?」 「雪になるから行くんだ」 とは、言えなかった。そんなことを言おうものなら、 力尽くでも家の中に押し戻されてしまうだろうから。 「ちょっと…行ってくる」 何処に、とは言わない。言わなくても、彼には伝わるから。 案の定、彼は更に表情を険しくした。 睨みつけるようなモリのその瞳を、ハルはまんじりともせず見返す。 そして、ポケットにしまっていた指輪を、黙ったまま差し出して見せた。 「…これは…?」 「誕生日プレゼント。……ケイに、渡しに行くんだ」 真っ直ぐにモリを見つめたまま、ハルは静かに言った。 そんな彼の顔に、いつもの明るい笑みはない。 「…」 しばしの間ハルを見つめていたモリは、ようやく眉間の皺を解いた。 彼が諦めたように息を吐き出すのを認めてから、ハルはその顔に笑みを戻す。 それは、とても明るくて…けれど、どこか作り物に似た…。 「大丈夫だ。すぐ戻ってくる」 指輪をポケットにしまいながら、あいた方の手で、バシバシとモリの腕を叩く。 「ホントにモリは心配性だな」 そう言って笑ってやると、モリは自嘲気味な笑みを返してきた。 「…心配性にもなるさ」 静かなその言葉に、ハルは彼に気付かれないよう、溜息をついた。 「…すぐに帰ってくるさ。オレは」 「ああ」 ハルの言葉に、モリは小さく頷き、踵を返した。 重い足取りで家の中に入っていくモリを見送り、ハルは再び溜息を零す。 白く染まった溜息も、すぐさま冬の空気の中に溶けていった。 それを見届けたハルは、足早に歩き出す。 「やっぱりやめておけ」 そう言ってモリに連れ戻されるのは、御免だったから。 「寒…」 身を切るような寒さに、ハルはコートのボタンを慌ててとめる。 その時だった。 「あ…」 雪が、静かに舞い降りてきた。 雲が、とうとうその腕に抱えきれなくなった雪を一斉に落とし始めたのだ。 小さな雪が、ゆっくり、ゆっくりと降りてくる。 「……」 いつの間にか歩みを止め、ハルは空を見上げていた。 静かに舞い降りる雪。真冬の、総てを白に染める大粒の雪では、まだない。 一つ一つゆっくりと降りてくる小さな雪。 大粒の、総てを覆う雪より、こうして一つ一つ舞い降りてくる雪の方が、彼は好きだった。 雪を見ているのは好きだ。 どんなに寒くても、いつまでだってこうして空を見上げていられる自信がある。 ただ、それには勿論、きちんと防寒をしていれば、という条件が付くわけで…、 「………寒ッ!」 やはり、寒いものは寒い。いくら手袋をし、コートを着ていても、 首筋が外気に触れていては、たまらなく寒い。 彼はすぐに、マフラーをしてこなかったことを後悔した。 家に取りに戻ろうかとも思ったが、やめた。 今戻れば、確実にモリに引き止められる。 雪が降っていないから、彼が自分を行かせたのだということを、ハルは知っていたから。 「仕方がないか」 溜息を零しつつ、ハルは後ろで一つに束ねていた髪を下ろす。 首筋に触れた髪の毛は冷たくて、一瞬肩を竦めたが、すぐにその冷たさも消える。 たとえ髪の毛でも、首をそのままさらけ出しておくより、いくらかはマシだろう。 再び、歩き始める。大好きな雪を眺めながら、人々の恐れる、冬の森に向かって。 森に入ると、雪が見えなくなった。常緑の木々が、地面に落ちる前に、その雪を掬ってくれるのだ。 真冬になり、雪の量が増すと、さすがに緑の葉達も全ての雪を抱えきれなくなり、地面へと手放してしまう。 その所為で、街へと続く道は消えてしまうのだ。 この森が白に染まるのも、あと少しだろう。 「まだ、降ってたんだな…」 木々の下にいては判然としなかったが、雪は未だ、静かに降り注いでいた。 一つ、また一つと…。 ハルがそのことに気付いた時、彼は目的の場所に辿り着いていた。 そこは不思議な場所だった。 唐突に木々のなくなった場所。半径25mくらいの円形。 そこだけ、木々が存在しないのだ。その所為で、そこは既に白く染まっていた。 精霊達の踊り場。 人々からそう呼ばれている、森の中の広場だった。 この森の中にはこうした木々のない広場がいくつか広がっており、 満月の夜にはそこで精霊達が輪になって踊るのだと言われている。 その話を聞いた時には、自分もその輪の中に加わってみたいものだと、子供心に思ったものだった。 「ケイ…」 白い広場に、彼は呼びかける。 返事はない。 それでも、迷わず歩を進める。 広場の端に、彼がケイと呼びかけた物があった。 ひっそりと木の根本にあるそれは、木製の十字架。 KEI 十字架には、彼の呼んだ名前が刻まれてあった。 その十字架の前に膝をつくと、ハルはポケットから指輪とチェーンを取りだす。 ニコニコと笑みを浮かべたまま、手袋を外し、チェーンを指輪に通した彼は、それを十字架にかけ、満足げに微笑む。 そして、 「Happy birthday、ケイ!」 そこにケイその人がいるかのように、ハルは微笑みかけた。 次に彼は、子供じみた仕種で唇を尖らせて言った。 「お前、結局今年も帰って来なかったな。 仕方なくオレが来てやったんだぞ。自分の誕生日ぐらい、帰って来いよ」 怒ったような口調とは裏腹に、その瞳に浮かぶのは、切ない光。 その光を消すように、彼は一度視線をおとした。 その拍子に、十字架の周りにある、雪に埋もれた塊を見つける。 うっすらと雪に覆われたそれは、鮮やかな色を称えている。 「コレは…?」 首を傾げ、鮮やかな色を閉じこめた塊の上、うっすらと積もった雪を払う。 姿を現したのは、花。だが、それはただの花ではなかった。 「ん? ガラス?」 透明な膜に覆われているその花に、再度首を傾げる。 その疑問をはらすべく、手袋を外したままの手で、そっと一つ手に取る。 「うわ、冷てッ」 思わず取り落としそうになった。 その花を包んでいたのは、ガラスではなかった。ガラスよりももっともっと冷たい…。 その花は、鮮やかな色のまま、氷の中にあった。 氷付けの花。 美しく咲き乱れた姿のまま、鮮やかな色を閉じこめて…。 「凍った花…」 痛みを伴うほどの冷たさで、己の手中にある花をハルは見つめる。 驚いたことに、手で直に触っているにもかかわらず、その氷は、溶ける気配を見せなかった。 むしろ、触れている手の方が凍らされてしまいそうな冷たさで…。 怖くなって、十字架の下に戻す。 「誰が…?」 いったい誰がこれを供えてくれたのだろうか? 考えても、答えは出てこない。 「ケイ…」 唇から零れ落ちた切ない呼びかけは、真っ白な雪の上に転げ落ちただけだった。 それを、拾ってくれる者はない。 きっと、そのまま、雪の白に溶け込んでいくのだろう。 ハルの閉じた瞳の奥で、ケイの幸せそうな笑顔が浮いては消え、そして、また浮いてくる。 『ねえ、聞いて。私、幸せよ。本当に、幸せなの』 そう言って微笑んだケイ。その微笑みは、本当にその言葉の通り、幸せそうで…。 「……今も?」 今も、あの言葉を、ケイは聞かせてくれるのだろうか。 冬の森に行くたび、そう言って微笑んだケイ。 そして、その言葉を残し、冬の森に消えていったケイ。 あの言葉は、今でも彼女の中にあるのだろうか。 「なあ、ケイ。今でも、幸せか…?」 答えは返ってこない。やはり、返ってこない。 優しく、静かに舞い降りる雪だけが、ハルの声を聞いていた。 いや、雪だけではなかった。 不意に、背中に視線を感じたハルは、十字架の傍に膝をついたまま、勢い良く振り返った。 「「あ」」 振り返った者、振り返られた者。二つの声が同時に上がる。そして、次に続く言葉はない。 ハルの視線の先にいたのは、一人の少女。 十を幾らも過ぎていないだろう、幼い少女だった。 肩にかかるか、かからないかの髪は、雪の中、優しく映えるハニーブロンド。 突然振り返ったハルに驚いているのか、大きな瞳をさらに大きくしている。 その瞳は髪の毛と同じ、優しい茶色。 降り注ぐ雪の白をそのまま肌に映しているかのように、白く透き通った肌。 それはまるで陶器のように滑らかで、汚れのない白。 まさに雪の肌―snow-whiteskin。 頬と小さな唇だけが、うっすらと薄紅色に染まっていた。 そして、彼女が纏っているのは何の飾り気もない、一枚の白いワンピース。 ただ、それだけ。冬の到来が始まったこの季節にワンピース一枚。風邪を引くだけではすまない。 凍てつくような外気の中、剥き出しになっているその小さな手には、いくつかの花が握られていた。 それは、十字架の周りにあるのと同じもの。 何よりハルを驚かせたのは、彼女が裸足であったこと。 そして、その足が、地を踏みしめていなかったことだった。 それで全てが分かった。彼女の透けるような白い肌の理由も。 「君は…」 問わなくても、もう答えは分かっていたけれど。 「もしかして…」 不意に少女が身を翻そうとしたことに気付き、ハルは立ち上がって彼女を引き止めていた。 「待ってくれ!」 「…」 少女は何も言わず、ふわりと動きを止めた。 ゆっくりと振り返った瞳が、僅かに怯えの色を宿していることに気付いたハルは、 彼女を安心させるように優しい口調で語りかける。 「この花、君が供えてくれたんだな?」 ハルの問いに、少女は小さく小さく頷いて見せた。 「そっか。ありがとな」 綺麗な花を供えてくれてありがとうと、ハルは礼を述べる。 優しい微笑みを向けられた少女が、驚いたようにハルを見つめ返す。 その瞳から、恐怖の色が消えていくのを、ハルは微笑んだまま見つめていた。 それが、白い精霊との、初めての出逢いだった。 |