「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!」」」」」」」 狭い空間内に、少年たちの絶叫が響き渡る。 そしてそれに続いたのは、地面を揺るがすほどの爆音!! ・・・ではなかった。 「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」 沈黙。 「・・って、そうだよな」 重く冷たい沈黙をはねのけ、真っ先に口を開いたのはアズマという名の少年だった。 漆黒の髪。その下から覗く切れ長の瞳は、髪と同じく夜色。 細い体をしてはいるものの、華奢な印象を与えないのは、スラリと高い身長と、バランス良くついた筋肉のおかげだろうか。 切れ長の瞳に加え、細いおとがい。非常にシャープな顔立ちをしている彼は、 僅かに険のある印象を他者に与える。それと同時に、彼の醸し出すどこか落ち着いた雰囲気は彼を知的に演出するが、 当の本人にその自覚はないらしい。 その唇から零れる言葉は、16、7という年齢に相応しく、若々しい声音で少々乱暴に紡がれていた。 「こーんな紙っ切れが爆発するわけないっての。なぁ」 そんなアズマの言葉に続くのは、どれも未だ若い少年たちの声。 アズマを中心に、彼の周りには十数人の少年たちがいた。 「そ、そうっスよね〜」 「ははは。叫んで損しましたよ〜」 「バカだな〜、俺たち」 「な〜」 「ははははははは」 非常に和やか〜な会話が展開されているその場所、しかも少年たちの中央で、 一人その和やかさから取り残されている者がいた。 おそらく爆発に備えたのだろう。庇うように頭を両腕で覆い、地面に体を伏せた格好のままでいる少年。 彼こそ、つい先程まで誰よりも熱心にこの人騒がせな説明書を読んでいた、ユキムラという名の少年だった。 頭を庇う腕。そこから覗く肌の色は、生まれつきなのかそれとも太陽に染められたのか、小麦色。 その腕の間から地面へと流れるのは艶やかな黒髪。 一つに結わえられている所為で余計目に付く不揃いの髪。 それが少年の元気の良さを示すかのように、思い思いの方向にはねている。 長さが足りないのだろう、頬を撫で、耳を隠すようにして落ちる一房の髪の後ろ、 両の耳朶には赤いピアスが光っている。 「おーい、ユキムラ。いつまで縮こまってる気だ?」 未だ地面に伏したままでいるユキムラに気付き声をかけたのはアズマだった。 それでも体を起こそうとしないユキムラに、今度は少年たちが声をかける。 「そうっスよ〜、ボス」 「もう大丈夫ですって」 口々にかけられる少年たちの言葉に、ユキムラは勢いよく体を起こした。 そして、自分を呆れたように見下ろしている少年たちに視線を遣る。 その瞳は、黒。だがそれは、アズマの、夜空のように凛と澄んだ黒曜石が如くのそれとは違う。 その瞳にあるのは、妖しさを秘めた色彩。 それは、夕焼けと夜の闇とが混ざり合った色。限りなく夜色に近い、紫。 夕闇と宵闇との、透き間の紫−透紫。 彼の名、そのままの色。 だが、そんな美しい色彩に輝くのは、少年特有の好奇心という名の光。 そして今はその中に、怯えの色が混じっていた。それは何に対する恐怖かというと、 「いや、爆発する! するに決まってる! だって親切に書いてあるんだぞ!?」 紙切れが爆発するのだという事に対して、だ。 ずっと体を折っていた所為か、僅かに掠れてはいたが、響いたその声は、 色でたとえるならば若草色。少年らしい涼やかな声音だった。 が、紡がれたその言葉は、声音の涼やかさを台無しにするようなものだった。 性格に難あり。 良い言い方をすれば、素直。実直。 もう少し別の言い方をすれば、単純。 「「「「「「はぁ??」」」」」」 首をかしげる面々の中で、アズマが呆れたように肩を竦め、ユキムラが放り投げた説明書を手に取る。 「何でもかんでも信じすぎ。お前、あっちむいてほいで、つい指差された方に顔向けるタイプだろ」 手に取った説明書をヒラヒラさせ、アズマは笑う。 「ほら、この紙っ切れがどうやって爆発するって言うんだ? するんならしてみせろってんだ。受けてたって───」 ボンッッ!!! 爆発した。 まるでアズマの挑発に応じたかのようだった。 「わあああああッッ」 「ア、アズマさんッ!!」 「大丈夫っスかー!!?」 「ああッ、顔が真っ黒〜」 「ホラ、オレの言った通りじゃないか。アズマのお・バ・カ・さん」 慌てふためく少年たちを余所に、ユキムラが得意げな顔で言い放ち、 顔を煤だらけにしているアズマを見てカラカラと笑い始めた。 普段ならばまずそんなユキムラに八つ当たりをするアズマだったが、 幸いにもその台詞と笑声は耳に届かなかったらしく、彼の怒りは爆発した説明書にだけ向けられた。 「ンだよ、この説明書はッ! 最初に『この「取扱説明書」は大切に保管してください。』 って書いてあったくせに! 爆発しちまったら保管も何もないじゃねーか!!」 適当に読んでいたのかと思いきや、どうやら彼もきちんと説明書に目を通していたらしい。 それはともかく、幸いにも爆発は大したことなく、アズマの顔を煤だらけにしただけだった。 だが、それでめでたしめでたしv と済ませるには納得がいかない。 アズマは更に文句をたれる。その後ろで響く笑声。 「ったく、何なんだよ、この説明書は」 「あはははははははははははははははははははははははははははははははは」 「肝心なことが書いてなかったような気がする」 「あはははははははははははははははははははははははははははははははは」 「ってか、だいたいこんな、まるでオモチャの説明書みたいなのつけられてもな・・・・」 「あはははははははははははははははははははははははははははははははは」 「・・・・・って、お前、笑いすぎだッッ!!!」 「悪い。でも、どうにも笑わずには・・・・・顔、黒ッッ!!! あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」 「やかましいわッッ!!」 人の不幸は大好物vv という人間はときたまいるが、彼の場合はただ単に、 顔を真っ黒にしたアズマのその姿が可笑しかっただけらしい。 ひとしきり腹を抱えて爆笑した後、ユキムラは目尻に滲んだ涙を拭いつつ口を開く。 「ま、そんなコトはどうでもいいとして」 「どうでもいいのか!? 俺がこんな目にあったってのに、ソレがどうでもいいって言うのか!?」 目をむいて反論してくるアズマに、 「だってオレには関係ないもん」 サラリと答える。 「そうかそうか。そうだな。お前はそういう奴だよ」 「・・にしても」 グチグチと文句を垂れ流すアズマを無視し、床に座り込んだまま溜息をついたユキムラは、 未だ辺りを漂う煙から、自分の隣へと視線を移す。そして、困り果てた表情で呟いた。 「・・何なんだ、コレは?」 そんなユキムラの言葉に、一同の視線も彼と同じ場所に注がれる。 その視線の先には、二人の少女が立っていた。何から何までそっくりな、二人の少女が。 |