レヴィが胸の鼓動に悩まされ、サヤが暗い顔でケーキを作り、リコが鋭く目を光らせレヴィとサヤの接触を全力で阻止。そして、それを何とも言えない表情で見守っていたシャオの、何とも言えない一日がようやく終わった。 cafeEDEN、closed。 夕食前のお掃除に勤しむ4人だが、いつものような賑やかさはそこにはない。 「・・・・」 一人、溜息を漏らすシャオ。 何がどうなっちゃっているのかなんて、一目瞭然だった。 リコ→→レヴィ。悲しいかな、それは今まで通り。最近になってリコがサヤにライバル心を覚えてきたらしく、よくレヴィとサヤが話しているのを見ては悔しそうに唇を噛みしめていた。 それは、良い。可哀相だけれど、まあ、良い。 サヤ→!?→レヴィ。これも、まあ、良い。シャオから言わせてもらえば「もっと良いヤツ居るから、やめておけよ」なのだが、サヤがレヴィに惚れるのもオカシイことではない。何せ、レヴィは顔が良い。中身が多少アレだが、目を瞑ってしまえるくらい、顔は良い。 だが、 (オカシイのが、アレだ) 目をやれば、テーブルを拭きながら、チラチラと厨房を窺っている、あの男。 レヴィが、オカシイ。 恋をしたいと言っていたのは、確かだ。そうしなければ何も分からないのだろうと焦れていたのも知っている。けれど恋などしたくても簡単にできるものではないのだし、あの朴念仁のレヴィが誰かに恋をするなんてことは、もうしばらくはないものとばかり思っていたのだが。 (・・・アレは、マジか??) サヤが気になって気になって仕方がない。そんなレヴィの様子に疑う余地はない。のだが、どうにも納得がいかないし、それを素直に喜ぶことができない。 「・・・はぁ」 その理由は、自分の思い人─リコ。 サヤを見つめるレヴィを見つめては瞳に涙を浮かべ、悔しそうに唇を噛みしめている。そして、猛ダッシュで妨害に向かうのだ。 その様子を愚かだとは思わない。ただ、可哀相で仕方がない。 だが、どうしてやることもできない。だって自分は、彼女の恋を応援することはできない。そこまで大人にはなれていない。 「はぁ」 再び溜息を零しつつ、厨房へと足を踏み入れる。 そこではサヤが調理台の上を丁寧に拭いていた。彼女の様子も、何だかおかしい。今日は心ここにあらず、といった様子。 リコの妨害工作にまいってしまっているのだろうかとシャオは心配そうにサヤを見つめる。ふと、彼女の手に視線が行った。 「サヤ。その手、どうした?」 彼女の白く細い手。左手の小指の付け根、そこに赤い腫れを見つけたのだ。 「え? あれ? 何だろう?」 シャオに言われて初めてサヤはそこが腫れていることに気付いたらしい。 気付かなかったとサヤが首を傾げているところへ、シャオの声を聞きつけたらしいレヴィが厨房へと入ってきた。 すぐさまサヤの手に目をやり、僅かに眉をしかめる。 「火傷じゃねーの?」 「でも、痛くないし」 切ったのかな? と自分の掌を捻って傷を見つめているサヤの手を、シャオが取った。 「切り傷じゃないな。とにかく冷やしておこう。女の子の手だしな。遅いかもしれないけど」 今負った傷ではないようだし、今更冷やしてもあまり効果はないかもしれないけれど、やらないよりはやっておいた方が良いだろう。蛇口を捻って勢いよく水を出すと、そこにサヤの手を導いた。 「ありがとうございます」 礼を言って、シャオの手をそっと避ける。自分に付き合って、彼の手まで冷やす必要はない。 「救急箱取ってくる。もう少し冷やしておくんだぞ」 「はい。すみません」 厨房の奥の棚に救急箱を取りに向かうシャオを見送り、レヴィがサヤの隣に寄った。 「大丈夫か? 痛くはないのか?」 心配そうに自分の瞳を覗き込んでくる二つのアメジストを見つめ返し、「大丈夫」とサヤは微笑んで答える。 「うん。だって、今気付いたくらいだもの」 それでもレヴィは心配顔を解こうとしなかった。 「でも、結構赤い 」 蛇口の水にさらされているサヤの手へと、そっと手を伸ばす。そして、傷を再度確かめようとしたその時、 シャーッ。 何かが床を滑る音が迫る。 「は!!」 慌てて真横に飛び退くレヴィ。その直後、今の今まで彼が居たその場所へ、真後ろからイスが滑り込んできた。そして、 ガゴオォォン!! 調理用具が納められた棚に盛大にぶつかると、イスはコロリと転がった。 何故イスが猛ダッシュで自分に迫ってきたのか理由を探るべく振り返れば、そこには「ごめ〜ん☆」と両手を合わせているリコがいた。 「あ、あ、危ねっ! お前、オレ避けてなかったら、全力で膝かっくんだったぞ!!」 「ごめ〜ん、ボス。サヤちゃん、座った方がいいかなァ、と思って。でも、ちょっと勢いがつきすぎちゃったみたい」 てへ☆ とわざとらしく舌を出すリコに、 (何か今日はリコにいろいろやられちゃってないか、オレ??) と思いつつも、その理由に気付けない激ニブレヴィ。 「気をつけろよ?」 「はぁ〜い」 良い子なお返事をして、リコは去って行った。 その背を見送るのは、何とも言えない表情のシャオ。 (見てしまった) またもやリコの嫉妬攻撃、だ。 持ってきた救急箱をレヴィに託し、転がったままのイスを徐に直す。 サヤはというと、黙ったまま、だ。 レヴィは何とも思っていないようだったが、サヤは気付いているに違いない。 リコも可哀相だが、サヤも可哀相だ。 とすれば、シャオの憎しみは何処へいくのかと言うと、 「アホ」 「いてっ!」 つい、レヴィの頭をペチンとはたいてしまっていた。 彼が悪いわけではないのだ。ないのだが、ここしかない。 「何すんだよ、シャオ」 いきなりの攻撃に憤慨しているレヴィに、 「飯作るから、手当は外でやってくれって言いたかったんだよ」 「叩かなくても口で言えよ、お前」 「悪かった悪かった」 しっしっと犬を追い払うように手を振って自分を厨房から追い出そうとしているシャオに、レヴィはむっと唇を尖らせるが、渋々救急箱を腕に抱える。 「仕方ねーなァ。サヤ、こっち」 「ええ」 そして、サヤの手を取って、フロアへと消えていった。 「・・・・・・」 それを、シャオは黙って見送る。そして、一言。 「・・・それは、アウトだ。レヴィ」 レヴィの姿が見えなくなってから、忠告。 そして数秒後。案の定、 ガシャーーーーーーーーーーーン!! 「いいっっってぇぇぇ!!」 ど派手な音と、これまた賑やかなレヴィの悲鳴。サヤの手を引いてフロアに現れたレヴィに、リコのジェラシーが爆発したらしい。 きっと超絶可愛らしい笑顔でもって、とんでもない攻撃をレヴィに仕掛け、それが見事、炸裂したに違いない。 「・・・・」 リコが何をしたのか確かめるのはやめておこう。 フロアから聞こえてくる喧噪を完全に無視し、シャオは夕食作りを始めたのだった。 「・・・・・」 リコのジェラシー攻撃は、翌日も続いていた。 「まあ、な」 シャオも、収まるとは思っていなかったが。 「だんだん、エスカレートしてないか??」 カウンター内で仕事をこなしつつ、自分がその攻撃を受けているわけではないのだが、見ているだけで額を流れる冷や汗が止まらない。 厨房内はもちろんのこと、客が居るフロアでだろうがお構いなしに、リコのジェラシー攻撃は順調に展開されていた。客に流れ弾が当たらないことだけを祈りつつ、それらを完全にシャオは無視する。 見ている方が怖いし、痛い。 とある時は、何やらレヴィとサヤが厨房で顔をつきあわせて喋っているのを見て、トレイが飛んだ。その勢いは凄まじく、レヴィの鼻を削ぐ勢いで持って投じられ、危ういところでそれを交わしたレヴィのおかげで、トレイは壁に激突し、そこにヒビを入れて落ちた。憐れ歪みまくり、もういっそ芸術的なオブジェ? ってな形に成り果ててしまったトレイを、そっとシャオが片付けた。 そしてある時は、サヤの方へ歩み寄ろうとしたレヴィの背後から、彼の足めがけて、 「とうっ!!」 野球選手も顔負けのスライディングを披露した。 「のわああああ!!」 慌てて飛び退き難を逃れたレヴィの隣で、 「盗塁成功」 爽やかな顔で汗を拭ったリコにシャオは、 「・・・・せめて、イメトレにとどめておいてくれるかな」 控えめにつっこんでおいた。 そんなこんなで、何故かボロボロになっているレヴィと、精神的にボロボロになっているシャオを見て、 「ふふふっ」 実に楽しそうに笑っているのは、お馴染み、お隣のDr.ウォンだった。 今日の席は、EDENの隅っこの席。そこでいつものコーヒーを啜りながら、目の前で繰り広げられるリコによる妨害劇を見つめていた。 「頑張ってるなァ、リコちゃん♪」 頑張り過ぎている感が否めないが、そこはウォンにとってはどうでも良い、むしろどんと来い♪もっと行け♪ らしい。 小一時間そうしてEDENのスタッフたちを見守っていたウォンだったが、シャオがカウンターから席を外したそのタイミングを見計らって、 「リコちゃん。リコちゃん」 ギラギラと獲物を狙う肉食獣の瞳をしてレヴィを見つめているリコを、ちょいちょいと手招いた。 「何ですか、ウォンさん。あたし今超忙しいんですけど!」 「うん。見てたら分かるよ」 視線をレヴィから外さぬまま横歩きで自分の元までやって来たリコに苦笑しつつ、ウォンはポケットの中をゴソゴソと漁る。 「リコちゃんに、恋の必須アイテムをあげよう♪」 「何ですか?」 一体何をくれるのだろうかと興味を持ったらしいリコが、ようやく視線をウォンへと向ける。 そうしてリコの期待の眼差しを受けてポケットから何やら取り出したウォンは、それをしっかりリコの手に握らせ、彼女の目を真っ直ぐに見つめて言った。 「リコちゃん。まだまだ生温い! やるなら、トコトン、だよ♪」 リコの肩を掴んでクルリと方向転換させ、厨房の方へと彼女を向ける。そこにはちょうど、厨房へと足を踏み入れようとしているレヴィの姿。 「さあ、行っておいで♪」 「ハイ!!」 「ヤるなら、トコトン♪」 そうして背を押して送り出したリコの手には、ギラリと光る、ブツ。 あんた、レヴィが可愛いんじゃなかったの!? と百発百中、誰もが襟首をひっつかまえて鼻息荒く問い詰めたくなるブツをリコに託したウォンは、それを誰にも見られていないことを確認した後、ニヤリと悪〜い顔で笑い、席を立った。向かったのは、カウンターとは別の厨房の入口、だ。勿論、トコトンを実践するリコを見守るために、だった。 そうとも知らず、厨房へと足を踏み入れ、 「お〜い、サヤ。腹減った」 呑気におやつをねだるレヴィ。ミキサーを使っているサヤはまだ彼の呼び声に気付いていないらしく、またレヴィに背を向けたまま。そんなサヤの元へ歩み寄ろうとしている彼の眼前を、 ヒュッ!! 「 」 超高速の何かが通り過ぎて行った。 感覚的には、今朝、自分の鼻をそぎ落とす勢いで投げられたトレイに似ていたが。 一体何だったんだと、ソレが通り過ぎて行った方を見やれば、 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ガンッ! カシャン! 壁に勢いよくぶち当たり、そして、冷たい音を立てて床へと落ちたソレを見て、レヴィは絶句する。 (・・・凶器!!?) そこに落ちていたのは、銀の刀身を冷たく輝かせているナイフだった。 完全に固まったレヴィの隣を、鼻歌を歌いながら軽い足取りでリコが歩いていく。そして、床に落ちたナイフを拾い上げると、 「・・・!!」 何も言わぬまま、スカートの下にしまった。 生足、チラリ☆ なんて男ならば浮かれべきシーンであったのだが、レヴィはサァッと青ざめる。 (・・・こ、殺し屋!?) 怯えるレヴィを、くるりとリコが振り返る。そして、 「ボス フロア、空けないでくださいね」 超満面の笑みで、可愛らしくお願いをした。 「はっ、はい!! すんませんでしたあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 脱兎の如くレヴィは厨房を飛び出して行ったのだった。 closed。 本日の夕食は、お隣のDr.ウォンを交えて、5人で食卓を囲む。 が。 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・。」 「・・・・・♪」 会話は、ゼロ。 異様な、嫌な汗を額に滲ませながらシャオがサラダをつつき、鋭い視線に晒されたレヴィが震えながらオニオンスープを口へと流し込む。 レヴィとサヤに間に腰を下ろしたリコが甲斐甲斐しくレヴィの更にパスタをよそい、その隣で渋い顔のサヤが食事を終えた皿を持って立ち上がる。 いつもとは明らかに雰囲気の違う食卓を、興味深げに眺めるウォン。 「ごちそうさまでした」 いつになく早く食べ終えたサヤが、フロアから厨房へと姿を消した。 「あのさ、リコ」 「何ですかァ? ボス」 とっくに夕食を終えていながらレヴィに張り付いたままでいるリコに耐えきれなくなったらしいレヴィが、恐る恐るリコに進言した。 「あのさ、オレ、ゆっくり食うし。もう、上がれば?」 このままリコに隣に張り付かれていては、せっかくの夕食も、美味しくない。 さすがにナイフをちらつかせてはいないものの、リコの視線の鋭さは昼間のまま、鋭利さを一切失っていない。そんな視線に晒されながらの夕食を、レヴィが楽しめるはずがない。残念なことに、今のところ何を食べても全く味を感じることができていなかった。 もう解放してくれと切実に祈っていると、幸いなことに祈りは神に通じた。 「は〜い。じゃあ、お先です♪」 空になった食器を持って立ち上がったリコに、レヴィがほっと安堵の溜息を洩らした。 残った男三人。 ひとまずは、沈黙。女性陣2名が去ったフロアには、未だ先程までのギスギスとした空気が残っている。それが完全に去るのを待ってから、ポツリと呟いたのはレヴィだった。 「・・・・オレさ、最近リコが怖いんだけど」 ガシガシとお行儀悪く、フォークでサラダをつつきつつ呟いたレヴィに、うろんげな顔でシャオが相槌を打つ。 「・・・だろうな」 「何なんだよ、コレ」 物を投げつけられるのは序の口。その物も、イチゴのへた→布巾→皿→トレイ→イス。次第にバージョンアップしていき、最終形が、ナイフ、だ。プラス、合間に挟まれるスライディングや膝かっくん。何より、一番堪えたのが、突き刺すような視線に常に晒されていること、だ。目の鋭さと、それに激しく似合わない笑顔が、怖すぎる。 そして、そうした攻撃を受ける理由が分からないのも怖い。原因が分からなければ、解決方法が探れない。 レヴィなりに考えに考えた末、今までの怠惰がたたったのだという結論に至ったのだが、しかしそのお仕置きというにはいささか厳しすぎないだろうか。お仕置きでないのなら、自分が気付かない間に、彼女に何かとんでもないコトをしてしまったのだろうか。 「オレ、何か恨まれてんのか!?」 ついにサラダをつついていたフォークを放り出し、両手で頭を抱え込んだレヴィに、ウォンがおっとりと微笑しながら答えた。 「オレが何した !?」 答えが分かっている二人は一様に口を閉ざす。 真剣に悩んでいる彼には悪いのだが、答えは簡単すぎる。悩んでいるレヴィ一人が分かっていないだけなのだ。 が、それを教えてやる気は二人には毛頭ない。その理由は、それぞれだったけれど。 ついには抱えた頭をテーブルに突っ伏して唸り始めたレヴィを見つめながら、僅かな逡巡の後、シャオが口を開いた。 「・・・お前、サヤのコト、好きなのか?」 シャオから向けられた思いがけぬ問いに、レヴィは「へ?」と間抜けな声で問い返し、突っ伏していた顔を上げる。 「いや、このドキドキは病気なんだろ?」 恋なのかと問うた自分に、病気だから違うのだと教えてくれたのはシャオだったではないかときょとんと目を丸くするレヴィに、シャオは 「・・・・まあ」 曖昧な答えを返すことしかできない。 「まだ治ってないんだけどなー」 先程までの苦悩を何処へやったのか、「参った参った」と、カラカラ笑っているレヴィを見遣り、シャオは小さく溜息。 やはり、彼の中に芽生えたものは、未だその胸の中にあるらしい。 それを病気だと思っているのは彼だけ。 シャオも、リコも、ウォンも、その鼓動の名を知っているのに、当の本人だけが知らない。それを幸とすべきか不幸とすべきか。 「・・・」 答えが、シャオには出せないでいた。 ライバルが消えるのは嬉しいが、リコの涙を見る覚悟を決めることが未だ出来ていない。 口を閉ざしたシャオの横顔を、ちらりとウォンが横目で見つめていた。が、そのことにシャオが気付く前に、レヴィが再び顔に苦渋を滲ませて呻いた。 「ってかさ、今はオレ、リコのこと考えている時の方がドキドキする。コレって恋??」 その台詞にシャオは盛大にガックリと項垂れる。レヴィの中では、ドキドキすれば何でも恋になってしまうのだろうか。そして、それを病気だと言われればコロッと信じてしまうこの単純さにほとほと呆れてしまう。が、レヴィがそれを思い込んでしまってはたまらない。即座にシャオがつっこんだ。 「違う。それは生命の危機にさらされていることに対する緊張感だ」 「あ、そうか」 と、一瞬シャオの言葉に納得しかけたレヴィだったが、 「 って、やっぱ迫ってんのか、危機!!?」 それは納得したくない。「マジで!?」と向かいに座っているウォンに目を向ける。勿論、否定してもらうためだったのだが、 「ぐんぐん迫ってるねー♪」 楽しそうに肯定されてしまった。 再びレヴィは頭を抱えて絶叫する。 「イヤだ ! 死にたくない っっ!!」 「まあまあ、大丈夫大丈夫〜♪」 悶えるレヴィと、何の根拠もないがヒラヒラと手を振ってテキトーに彼を慰めているウォンを横目で見遣り、シャオは大きな溜息を零した。 そして、呟く。 誰にも聞かれないように、小さな小さな声で。 「 俺は殺したいと思うくらい、愛されてみたいよ・・・」 誰に、とは言わない。答えは決まっている、ヒマワリのような、あの少女に、だ。 あそこまでの嫉妬攻撃を受けるのは御免被る。だが、ああして、誰にも渡したくない、誰とも話さないで欲しい、そう思われる程、彼女に愛されてみたい。 (・・俺にはお前が羨ましいよ、レヴィ) 言葉には出せない本音。 代わりに、再び溜息が唇を越えて零れ落ちた。それが消えるのを待ってから、シャオは黙って席を立る。未だにギャーギャー喚いているレヴィと、それをテキトーに慰めているウォンとを一瞥し、シャオは厨房へと足を向けた。 そんな自分の背を見つめている瞳があること、そして、誰にも届いていないと思っていたその呟きをその瞳の主が拾っていたことに、シャオは気付くことができなかった。 厨房の奥へと消えていったシャオを見送ったのは、ウォン。 「ふーん」 レヴィの頭をわしわしと撫でながら、視線は厨房。口元は僅かにつり上がっている。 「え? 何? ウォン」 「ううん。何でもないよ♪」 きょとんと目を丸くするレヴィに、何でもないのだと首を左右に振って見せる。その背中では、黒い尻尾が左右にユラユラ揺れていた。 |