あんなことがあったのに、時間はいつもと同じように過ぎていく。 昨晩のお詫びにと、朝食当番を引き受けたレヴィの作った朝食を平らげ、店が昼のピークを無事に乗り越える。そして今、おやつ時、三時のぷちピークを過ぎた店内には、しばしの平穏が訪れていた。 店内に居るのは、コーヒーを飲みながら小説を読んだり、新聞を読んだりと思い思いに時間を過ごす顔なじみの客2、3人と、カウンター内でグラスを磨いているシャオ。厨房では甘い香りの中に身を置いたサヤが、ケーキを作っている。 そして、いつもはフロア内で客と他愛のない話をして時間を過ごしているはずのレヴィの姿が、今日はそこにない。 そのことに気付いたリコは、すぐにその姿を探していた。 昨日、あんなに傷付いて涙したのに、それでもこの胸の中の想いは、その大きさを少しも変えてはいないらしい。 リコはレヴィの姿を求め、裏口から店を出る。 レヴィは、そこに居た。 その姿を見ると、ほっとする。そして、胸がジンとする。 己の胸の熱を感じ、 「あああああああああ、もう、何でなんだろ!?」 思わずリコは頭を抱える。 昨日、あんなに傷付いた。あんなに泣かされた。 それなのに、 「何で嫌いになれないんだろ。 あたしって自分ではSだと思ってたのに、実はMっ子ちゃんだったの!!? そうなの!? 否!!」 思わず声に出してとんでもない自問自答をかました後、リコは溜息を零す。 分かっている。 分かっているのだ。 この究極にニブーい男は、自分の気持ちになど1ミクロンも気づいてくれていないのだということも。 自分に対して恋愛感情としての“好き”を抱いてくれていないのだということも。 全部、分かっている。 「分かってるのになぁ・・」 それなのに、諦められない。 この、切なくて苦しくて熱い、捨ててしまえば楽になれると分かっているこの想いを、けれど捨てることが出来ない。 嫌いになれたら、楽なのに。 嫌いになれれば、解放される。この小さな胸をジリジリと焦がす、熱くて熱くてたまらない想いから、解放されるのに 。 それなのに、リコのブラウンの瞳は、レヴィの横顔を捕らえたまま離さない。 太陽の光を浴びてきらきらと輝く金糸の髪がまぶしい。 優しく細められる瞳の色は、甘いアメジスト。 男にしては未だ細い腕を、細い指を伸ばしている先に居るのは、数匹の猫だった。 それは皆、レヴィが雨の日に、どこからか拾ってきた子猫たち。 よく懐いているらしく、地面に座り込んだレヴィの足に体を擦りつけたり、差し伸べられた指に鼻先を擦りつけて甘える猫たちに、レヴィは優しく瞳を細めている。 その姿は、キレイ 。 「ああああああああああああああああああ、あの顔がブッサイクだったら良かったのよー」 再度、頭を抱える。 この近辺では珍しい金糸の髪が、どこにでもいる黒色だったら? 髪と同様に珍しいアメジストの瞳が、やはり闇色だったら? 女性的な細い面が、骨張っていたら? すっと通った鼻筋が歪んでいたら? 未だ成長しきっていない細い体の線が、びっくりするほどマッチョムキムキだったら? 「それでも 」 自分が好きなレヴィの部位を全て否定してみても、それでも。 「好き、かも」 その外見に惚れたのでは、ないのだから。 嫌いになれない。 「はぁ・・」 知らず、溜息が零れた。 レヴィと遊ぶことに飽きたのか、猫たちが徐々にその姿を消していく。 気ままな猫たちの背を見送るレヴィの膝の上に、最後まで残っているのは小さな黒猫。 その背を撫でながら、ぽつりと呟いたのはレヴィ。 「みんな帰っていくんだな」 「にゃぁ」 自分はまだここに居るとでも答えたのだろうか、膝の上の子猫が小さく鳴いた。 視線を黒猫に戻したレヴィは、今度は黒猫に問いを向けた。 「なあ、お前たちの家は、ドコだ?」 「にゃぁ」 猫はレヴィの問いに答えているのか、それとも気まぐれなのか、小さな声で鳴く。 その鳴き声は、リコにも聞こえた。 レヴィが小さく笑い、黒猫の喉を撫でる。 「帰る場所があるなら、いいんだ。ないと、寂しいからな」 言って子猫から、遠ざかっていく猫たちの背へと瞳を向けたその横顔は、どこか寂しげで。澄んだアメジストの瞳に浮かぶのも、憂いの色。 「ボス・・?」 去っていく猫の背に、彼は何を思っているのだろうか。レヴィの切ない瞳に、思わずリコの胸がきゅっとなる。 レヴィの切ない瞳を、黒猫も感じたのだろうか。 「にゃあ」 更に甘えて、レヴィの膝に体をこすり付ける。 「お。どうした」 突然立ち上がり、体を擦りつけてきたその小さな体を両手ですくい上げ、レヴィが抱きしめる。 あの雨の日、拾い上げた時と同じように、その胸に抱きしめる。 「 一緒」 ぽつりと、リコが洩らす。 あの子猫と、あたしは、一緒。 6年前の雨の日、このFall cityの郊外に立ち尽くしていた所を、レヴィに拾われた。 温かな手を差し出されて、思わず握ってしまっていた。そして、何も言わず強引に、けれど優しい手に引かれて、 楽園へと導かれた。 あの、子猫と同じように。 「あたしは、一緒なの・・?」 雨の日、ボスに拾われた子猫のうちの一匹でしかないのだろうか。6年経った今でも。 「それじゃ、イヤ・・」 子猫の、まま? そんなの、イヤ。 レヴィが自分を拾ってくれた事実は、一生変わらない。 けれど、一生、レヴィにとっての自分が、雨の中で立ち尽くしていた可哀想な子供であることが耐えられない。 拾ってきた可愛い妹分のままでいることが、今は耐えられない。 だって、あたしは、そんなポジション、望んでいないんだもの。 「・・・ボス」 思わず、彼を呼ぶ。 それは小さな小さな声だった。 レヴィに届けるつもりもなく、ぽつりと地面に落ちただけの言葉。けれど、彼には届いたようだった。 「お。リコ」 憂いの色を消したアメジストの瞳が、リコに気づき優しく細められる。 この声が届いたことが嬉しい。その瞳に写してもらえたことが、嬉しい。 ドキン、と小さく弾む胸を押さえて、リコはレヴィの隣まで歩み、彼と同じようにしゃがみ込んだ。そして、問う。 「ねぇ、ボス」 「ん〜?」 じゃれてくる子猫をあしらいながら、何だと返してくるレヴィに、リコは思い切って問うていた。 「ボスにとって、あたしって、何?」 それは、レヴィにとって思わぬ問いであったらしい。 視線を子猫からリコに戻した瞳が、不思議そうに数度瞬く。 そして、 「・・・・・・・人間? に見えるけど? 一応」 逡巡の後、与えられた答えにリコは目をむく。 「随所に散らばった疑問符はなに!? ってか、一応とかって付けちゃってるし!!」 「いや、だってさ、何だよ急に」 憤慨するリコに、レヴィは苦笑する。 いったい何と答えればリコが満足したのかが、レヴィには分からない。そもそもが唐突すぎる質問だ。 戸惑うレヴィと、ぷんすか怒っているリコに構わず、 「にゃあ」 膝の上に乗っていた子猫が、レヴィの膝の上から地面へと降り立ち、鳴いた。 「お、行くのか」 もう一度、にゃぁ、と答えた後、黒猫は駆け出し、その姿を消した。 完全にその姿が見えなくなると、レヴィは立ち上がる。 「よし、戻るか、リコ」 リコの前を通り過ぎ、店内へと戻っていくレヴィの背を、リコはしゃがんだまま見つめる。そして、その背に、 「・・・ねぇ、ボス」 再度、声をかける。 「何だよ」 今度は何だと、歩みを止めて振り返ったレヴィに、問う。 「もしあたしが、ココからいなくなったら、どうする?」 あの猫たちのように、すいっと背を向けて、どこかへ行ってしまったら、レヴィはどうするのだろうか。切ない色を浮かべて、けれど引き留めることはせず、あの猫たちと同じように、その背を見送るのだろうか。 「・・・家を出て行くってことか?」 リコの問いの意味を計りかねて、レヴィは眉を顰める。 「もしもの話☆」 急に何を言い出すのだと難しい顔をしているレヴィに、そう言ってリコはにこっと笑う。 「・・・・」 黙って答えを探しているレヴィの姿を、リコは探るように見つめる。 彼は、どんな答えを返してくれるのだろう。 絶対に嫌だと駄々をこねてほしい? 行かないでくれと引きとめてほしい? (どっちでも、いい) どちらかならば、良い。 けれど、レヴィから返された答えは、 「止めない」 そんな答え。 「 」 唇を噛みしめるリコの瞳を真っ直ぐに見つめ、レヴィは答えた。 「お前が出て行きたいと思ったら、行けばいい。オレにそれを止める権利はないからな」 言って、いつもの顔で、笑う。少年らしい快活な笑み。 その笑顔が大好きでいつも見つめていたのに、今は、瞳を逸らすしかない。 「 」 そうしなければ、落胆の色が隠せない。 (・・・泣きそう) 思わず顔を俯けたリコの耳に、足音が響く。自分の前を通り過ぎていったレヴィが、自分の前に戻ってくる足音。 そして、若草色の声が降ってくる。 泣きそうになっていることに気付かれたのだろうか。 慌てて顔に笑みを戻そうとリコが奮闘していると、 「でも、たぶん、雨の日にはお前を捜すよ」 落ちてきたのは、そんな台詞。 「え?」 意外な言葉に、リコは笑顔を作りきる前にレヴィへと視線を向けてしまっていた。 滲んだ視界がレヴィを捉える。 そこには、にかっと快活な笑みを浮かべて自分を見下ろしているレヴィの姿があった。 「あの日みたいにお前が、雨の中、何にも言わずにただ立ち尽くして泣いてるんじゃないかって、気になって仕方ねーもん」 6年前の、あの雨の日。 体を伝い流れ落ちる滝のような雨とともに、この命も体からはがれて流れ落ち、地面に吸い込まれ、そして消えていけばいい。 そんな思いで立ち尽くしていたあの雨の日、レヴィに拾われた。 あの日を思い出して、彼は自分を探すと言った。 「・・・あたし、別に泣いてなかったよ」 全てに絶望していただけで。 「いいや、泣いてた」 彼には頬を伝う雨が、涙に見えたのだろう。 「・・じゃあ、また、泣いてたら?」 「連れて帰る」 即答。 それだけで、胸に広がる温かな想い。 「あの日みたいに?」 「あの日みたいに」 雨の中、何も言わずに差し出された手。 「手を繋いで?」 「そうだな」 握った手は、自分とさほど変わらない小さな手で、けれど、温かかった。 少し強引に手を引いて、彼は雨の中から自分を救い出してくれた。 もう居場所はない。自らその居場所を壊した自分に、彼は楽園を与えてくれた。 そんな彼が、自分の全てになった。 それは、きっと、これからも、ずっと。 「雨は冷たいからな。手を引いて、また連れて来てやるよ、ここに」 そう言って、彼は笑った。 「・・じゃあ、抱きしめてくれる?」 「はは。何だよ、それ」 甘えるようなリコのその台詞に、レヴィは声を出して笑った。 けれど、 「分かったよ。体が冷えてたら、ぎゅってしてやるよ。出血大サービスだ」 にっと笑いながら、両手を広げて見せた彼の姿が、眩しい。 「 」 「おいおい、どうしたんだよ、今日は。なーんか静かで気持ち悪いなァ」 大仰に顔をしかめたレヴィに、ようやくリコは立ち上がる。いつも通りを装って、声を荒げてみせる。 「ちょっと、気持ち悪いってヒドイです〜!」 「天変地異の前触れかと思って、ついつい神に祈りを捧げたくなるからやめてくれ」 「それこそ天変地異の前触れでしょ。超無神論者のくせに」 「ああ。神は、オレだ」 「何ソレ。かなり危ない思想ですよ」 「あははー」 カラカラと笑うレヴィに、リコは問う。 きっと本気ではないのだろうが、自分が神だと言ってのけたこの少年に聞いてみたくなった。 「ボスのボスは、ダレ?」 自分にとってのボスは、レヴィ。では、そのレヴィのボスは誰? 「オレの?」 それは、思わぬ問いであったらしい。 首をひねりながら、レヴィは答え込む。 「うーん。母さん、かな。もう居ないけど。ずぶ濡れだったオレを抱きしめて、雨の中から楽園に攫ってくれた人」 リコがレヴィに居場所を与えてくれたように、レヴィはその『母』に居場所を与えてもらった。 しかし、その居場所に、『母』はもう居ない。 もし、ここにレヴィが居なければ、リコは (あたしは、居られないかもしれない) 全てであるレヴィが居なければ、ここも居場所ではなくなってしまうかもしれない。けれど、彼は、まだここに居る。 「お母さんはもう居ないのに、ボスはここにいるの?」 どうしてと問う瞳に、レヴィは不思議そうに答えを返す。 「母さんはいなくなったけど、ずっとシャオがいるじゃないか」 当然のことじゃないかと、返される。 「・・じゃあ今は、シャオがボスのボス?」 「んー。あんまりうんと言いたくないけど、まあ、一応兄貴分だしなー」 そう言って照れくさそうにレヴィは頭をかく。 「じゃあ、シャオに出て行けって言われたら?」 その問いに、レヴィは思わず笑う。 「何、それ。オレ、何しでかした設定?」 と笑った後、心当たりはなくはない、と昨夜のコトを思い出して一人で凹むレヴィだったが、 「いいから」 とリコに答えてとせかされ、再度首をひねる。 「出て行けって言われたら、か?? うーん。 居座る!」 「・・・・」 「だって、ここにはリコがいるだろ」 「え?」 まさかここで自分の名前が出てくるとは思ってもみなかったリコは、目を丸くする。 不思議そうに目を瞬かせるリコに、レヴィはにっと笑いながら言葉を繋いだ。 「リコはオレが連れてきたんだ。オレが居なくなったら寂しいだろ?」 それは、聞く人が聞けば随分と自信過剰な台詞に聞こえたに違いない。けれど、リコは、 「 うん。寂しい」 素直に、頷く。 その反応に、レヴィは笑った。 「何だよ、ソレ。あんた、バッカじゃないの!? とかっていつもの罵倒を期待してたのに」 そんな風に頷かれたらなんか恥ずいだろ!? と喚くレヴィに、リコは彼のご要望通り、 「罵倒期待してたんですか!? もしかしなくてもボスってMですか!!」 「お前、そういうコト言うなよ、アホ」 「あはは」 笑う。 これ以上、考え込んでいたら、ボスが困るに違いないから。 彼がくれた言葉は、嬉しいけれど、嬉しくない。 オレが居なくなったら寂しいだろ? と、彼は言った。 オレが一緒に居たいから。 そんな台詞だったら、きっと純粋に嬉しかったはず。 だって、分かってしまった。 ( あたしはまだ、雨の中から拾われてきたカワイソウな子供でしかないんだ・・) そして、ふとわき上がる気持ち。 (諦めよっかな・・) きっと、ずっとこのままなんだ。 そんな風に思うと、先ほどまではどうしたって温度を下げてくれなかった胸の中の熱が、僅かにその温度を下げたような気がした。 沈んだ気持ちをごまかすように、リコはまた、「あはは」と笑った。 そんなリコの鼓膜を、ふとレヴィの声が揺らす。 「雨、降りそうだなー」 その台詞に視線を上げれば、空はいつの間にか、その腕にどんよりと重い雲を抱えていた。 「・・ホントですね」 「入るか、家」 ぽんと肩を叩かれ、促される。 「はい」 再び自分に背を向け、店内へと向かうレヴィ。 頷いたもののリコは彼の後に続かず、佇んでいた。視線は、再び空へと向けられる。 少しだけ、時間が欲しかった。 沈んでしまった気持ちを落ち着かせるための時間が。 けれど、 「リコ」 もうとっくに家の中に姿を消しているものとばかり思っていたレヴィの声に、名を呼ばれる。 驚いて視線を空から移すのと、 「リコ」 再びレヴィの声に名前を呼ばれたのとは同時のこと。 「どこにも行くなよ」 穏やかな声音で、見つめた彼の瞳も、穏やか。 その瞳がキレイ過ぎて、一時も逸らすことなく見つめ続けていると、レヴィがゆっくりと目の前に立った。 「雨は、冷たいぞ」 そう言ってレヴィから差し伸べられた手。 「 」 この手は、きっと温かい。 あの冷たい雨の日より、大きくなった掌。 けれど、それはあの日握ったままの温かさをしているに違いない。 否。今その手を取れば、あの日よりももっともっと温かい いや、熱いに違いない。 あの日と、今とでは、違うから。 彼は変わらない。 けれど、リコは、もう違う。 じっと差し出された手を見つめていると、レヴィの笑う声が聞こえた。 「何だ? これだけじゃ足りないってか? ハグまで必要??」 先ほど、「抱きしめてくれる?」そんな風にリコがねだったのを覚えてくれていたのだろう。そんな台詞に、リコは大きく頷く。 「うんっ!」 頷いたついでに、レヴィに思い切り飛びついてやる。 「ぐえっ!! おっ前、これはハグじゃなくてタックルだ!!」 体ごと思い切りぶつかってこられたレヴィが、思わず呻き、大きくよろける。 「受け止めてくださいよ、男らしくない!」 悪態をつくリコを、けれどレヴィは突き放したりはしなかった。彼なりに、リコの様子がいつもと違うことに気がついていたのかもしれない。 「はいはい。スミマセンでした」 悪かったと謝り、くっついたままでいるリコの体を、ぎゅっと抱きしめてやる。 「 ///////」 「さ、これでいいいだろ」 ぽんぽんとリコの背を叩くと、レヴィはその体をリコから離した。 まだ。もっと。 離れていく温もりが寂しいけれど、その言葉を、リコは辛うじて心の中だけにとどめる。 その気持ちを察したのか。 否、それはないだろう。けれど、レヴィは言った。 「リコ。雨の中じゃなくたって、オレは手を差し伸べてやる。ぎゅっとだってしてやる。お前の場所はもうあんな冷たい所じゃない。ここだ」 言って、笑う。 その言葉をリコが否定することなど微塵も考えていない顔で、笑いながら。 「・・・・」 レヴィの笑みに見惚れるリコは、答えを返すことを忘れていた。 それを見たレヴィが、初めて不安そうに表情を曇らせる。 「何だよ。ここは、嫌か?」 問われ、リコは慌てて首を左右に振る。 そんなはずがない。 ここだけが、自分の居場所なのだから。 ふるふると首を振り続けるリコに、レヴィは笑みを零す。 「そっか。なら、ここに居ればいいんだ。な?」 そして、ぽんと、頭を撫でる。 「 うん」 左右に振っていた首を、縦に振る。 すると、僅かに腰を折り、リコのブラウンの瞳を真正面から見つめたレヴィが、 「よし。それでいいんだよ」 そう言って、微笑んだ。 「 」 それは、花が綻ぶような笑みだった。 「さ、戻るぞ」 そうして、今度こそ店内に消えていったレヴィの姿を見送る。その姿が見えなくなっても、見つめ続ける。 そして、唇を噛む。 ああ。ダメ。 リコは、観念する。 この人を嫌いになるなんて、無理。 「・・好き。ボス。大好き」 リコの唇から、切ない告白が零れ落ちた。 拾う人もいない、この場所で。 |