兄貴分であるウォンへ相談を終え、EDENへと戻ったレヴィだったが彼は仕事に集中できないでいた。 昨夜、サヤからシャオの事が好きだと告げられ、しかしシャオには別に好きな人がいるのだと涙を流したサヤに、自分が何が出来るだろうかと悩んだのだがどうしても答えを見つける事が出来ず、ウォンへと相談に行ったのだが、そこで衝撃の事実を知らされてしまった。しかも、二つも、だ。 @サヤが好きな人=シャオ。 Aシャオが好きな人=リコ。 ウォンからは、見守るしかない、と。今まで通りに振る舞うことだと言われたのだが、知ってしまってはもう気になって気になって仕方がない。仕事をしつつも、視線は渦中の三人へと向けられる。 実はその渦中に自分も巻き込まれていることには、幸か不幸か気付いていないレヴィだった。 「おい、レヴィ。コレ頼む」 「あ。お、おお」 カウンターのシャオからケーキセットを渡され、知らずシャオをじっと見つめていたことに気付いたレヴィは、慌てて視線を外し逃げるようにカウンターを離れた。 (シャオがリコを、かァ・・・) 言われてみればそんな節が見受けられたような気もする。 「お待たせしました 」 ニッコリと営業スマイルは忘れずに。けれど心此処に在らずなレヴィは、再び視線をカウンターへと遣ってしまう。 そこにいるシャオは、店内をチョコチョコと動き回っているリコを見つめていた。僅かに細められたその瞳の中には、愛おしげな光と共に切なげな色が滲んでいる。 「 ・・」 これが恋をしている者の目なのかと、レヴィは知る。 そんな瞳をしている者がもう一人居た。カウンターの奥、厨房へと視線を遣れば、そこにはシャオの背中をじっと見つめているサヤの姿があった。その瞳には、愛しさよりも切なさの方が色濃く滲んでいた。 「はぁ 、気付かなかった」 知ってしまえばこんなにもあからさまな視線が店内を行き交っていたにもかかわらず、気付かなかったとは自分でも驚きだ。 「あ」 不意に思い立ったレヴィは、リコを捜す。サヤはシャオを、シャオはリコを、ではリコはどうだろうと思ったのだ。そうして視線をリコへとやると、 「お」 「あ」 バッチリ目が合った。 レヴィとリコは、互いに慌てて視線を外す。 (ヤバイヤバイ、ばれちゃう/////) 我知らずついつい視線がレヴィを追ってしまう。あまり視線を送っていては、いくら鈍いレヴィだって自分の思いに気付いてしまうかも知れない。リコは「いかんいかん」と自分を諫めた。 レヴィはと言うと、 (やべーやべー。バラしちゃまずいよな) リコが自分を見つめている理由には全く気付かない鈍チンだった。あまつさえ、 (リコのヤツは、まだそーゆーのには興味ねーんだろうな) などという、「お前だけだよ!!」と彼の心の中が読める人間ならば喉が潰れる事さえ厭わず絶叫をかましたくなるような台詞を呟いていた。リコなどがこの台詞を聞いたなら、可愛さ余って憎さ百倍。ブスッとヤってしまっていたかもしれない。 自分がどんなにかおバカな台詞を吐いているのか気付くことなく、レヴィはホールの中央に突っ立って唸っていた。 「う ん」 明らかに仕事を放棄し何事か考えているとんでもない従業員の姿であるのだが、客の 誰もその事にはつっこまない。むしろ「憂えるレヴィくんも素敵」と観賞する者大多数。 そんなハート形になった幾対もの瞳に見つめられながら、しかしその視線に気付かぬレヴィがいったい何を考えているのかというと、 (サヤも可哀想だけど・・・やっぱ、シャオだよなァ) シャオとサヤ、一体どちらの応援をすればいいものか考え込んでいたのだが、分配はシャオへと上がる。自分を頼って来てくれたサヤの涙には胸が痛み、応援してあげたいとは思うのだが、やはり10年近く一緒に生活してきた兄にも等しいシャオの方がやはり勝ってしまう。 (・・・ごめんな、サヤ) サヤに心の中で詫びつつ、レヴィは決意する。 (オレはお前を応援するぜ、シャオ!) 不器用でシャイなシャオの為に、一肌脱いでやろうと密かに決意したのだ。その一肌の脱ぎっぷりを知っていれば、シャオは勿論の事、サヤやリコ、そしてEDENの恋愛模様に変化が出る事を大いに望み楽しんでいるウォンでさえもレヴィがやろうとしている事を全身全霊の力でもって阻止しただろう。 しかし、悪夢の夜はやって来る。誰にとっての悪夢となるか、それは次のお話で★ |