青い鳥。
鳥。

───鳥って?

鳥の鳴き声を、オレは忘れた。
そもそも、知らない、と言った方がいいのかもしれない。

クイズ。
【それは何故でしょーか?】

答え。
簡単。
【オレが生まれたときにはもう、Gg戦が始まっていたから。】
ほら、簡単だ。


第一次世界大戦。
第二次世界大戦。
第三次世界大戦。
第四次世界大戦。

たくさんの戦争を経て、やがて人類が辿り着いた、 おそらく最後の大戦−GLOBAL GLOOMY WAR(通称Gg戦)。

見上げた空に、鳥を探す余裕なんてない。
探すのは、死を運んでくる、黒い鋼鉄の鳥が居るか居ないか。
ただ、それだけだった。

そもそも、鋼鉄の鳥が往来するその空に、鳥の飛ぶ場所など、 もう、なかったのかもしれない。

だから、オレは鳥を見たことがない。
鳥の鳴き声も、知らない。

・・・多分。

オレの記憶の中に、鳥は存在しない。

『だから、いつも空を見上げていてごらんなさい』


見上げた空は、青。


「・・・すっげー。真っ青だ」

浮かぶ雲は、白。


『青い鳥が飛んでいるかもしれないわ』


踊る風は、姿もなく。


「・・青い空・・」

・・雲が、たなびく・・・・遠くへ、消える・・


『青空に青い鳥を探すのは大変かもしれないけれどね』



「・・・居ないな。何も」

何も居ない。

昔、羽を広げ空を泳いでいた鳥たちも。
昔、羽を広げ地上を蝕んだ鋼鉄の鳥たちも。

何も居ない。
空には何もないから。

見回す。
オレの生きる世界を。
見回す。探す。


壊れた都市。

政府の庇護を受ける首都都市とは比べものにならないくらい、貧しいcity。
戦争の爪痕を残したままのcity。
国に捨てられたcity。

そこに住むオレも、国に捨てられた子供。

それでも、オレは、生きてる。

「ユキムラ!」

・・・違った。
オレたちは、生きてる。

「アズマ」

一人じゃない。

「ボス〜! 準備出来ましたよ」

「ユイ」

オレを呼ぶ人たちがいる。

「早くぅ〜!」
「冷めちゃいますよ、ボス」
「チビたちが待ちくたびれてるぜー」
「ほら、今日の主賓はアンタなんだからな、ボス」

オレと同じ、壊れた都市で生きる仲間たちが居る。
このC−cityで共に生きる仲間たちが。

「・・・すぐ行く」

C−cityを統べるオレたちグループの総数は41人。
平均年齢は約18歳。
20歳を越すのはたったの4人。10代が28人。 あとは、10にも満たないチビたち。

CはCHILDRENのC。
ここは、子供たちの都市。C−city。

メンバーは皆、オレをボスと呼ぶ。
オレをグループのリーダーと認め、ボスと呼んでくれる。

オレは彼らを、大切な仲間だと思ってる。
家族だと思ってる。愛すべき者たちだと。

そんな彼らが、オレを祝ってくれる。

「「「「「「 Happy birthday、ボス!! 」」」」」」

オレの、誕生日。

誕生日なんて忘れた。
いや、違うな。
オレは知らないんだ。誕生日を知らない。

だから、今日。

『あなたが生まれたのは、暑い暑い夏の日だったの』

母親が言っていた。
だから、今日。

誰だったかな。オレの誕生日を決めた人。

・・・・ああ、グリフだ。
独りぼっちだったオレを救ってくれた人。

彼と出会った暑い暑い夏の日。

『よし。じゃあ、今日! 8月7日がお前の誕生日だ』

8月7日。
それが、オレの誕生日。

「わ、すっげー! ケーキ??」

祝いの席には、ケーキがあった。小さなケーキ。
戦前の風習を懐かしんで、メンバーの少女たちが作ったのだろう。

ご丁寧に蝋燭まで立ててある。
太い蝋燭が一本。
どうやら、それが10本分って事らしい。

その周りに細い蝋燭が、

「1本。2本。3本。4本。5本。6本。7本」

西暦U−8年は ち ね ん 8月7日。
オレは、17歳の誕生日を迎えた。

「ふぅ〜って! ふぅ〜ってして!」

急かす、幼い声。

「よし」

そっと息を吹きかけると、小さな炎は、あまりにも呆気なく消えた。
残ったのは、白い煙。

「「「「「「 17歳、おめでと〜!! 」」」」」」
「サンキュ」

誕生日を知らないオレが、自分の歳を正確に知っているわけがない。
だから、約17歳だ。

ナンバー2のアズマが17歳だと言っていたから、オレも対抗して17歳。
どうせなら20歳にしたかったけど、
「それはあり得ない!!!」
と激しいブーイングにあった。
・・・・みんなヒドイ。

でも、愛してる。

戦争で、たくさんのものを失くしたけど、戦争があったから彼らを得たのも事実で。
・・・複雑だ。


戦争でオレは、たくさんのものを失くした。

食べる物。
着る物。
住む家。
故郷。
家族との優しい時間。

言い尽くせないほど、たくさんのものを失くした。

でも、そんなものは、どうだっていい。
オレは、両親が居てくれればそれでいいと思っていたから。

でも、オレは失くした。
父親。
母親。

違う。奪われたんだ。
何にも代え難いものを。
他には何も要らないって言ったのに。

その代わりに、戦争がオレに運んできたのは───孤独。

要らないって、そんなモノ。
見回しても見回しても誰も居ない孤独も。

大嫌いだよ、あんなモノ。
そんな孤独を運んできた戦争も。


オレからたくさんのものを奪っていった戦争は、この世界から、時間を奪っていった。
だから、この世界の誰もが、今≠ェいったいいつ≠ネのかを正確には知らない。
忘れてしまった。

クイズ。2問目。
【それは、何故でしょーか?】

答え。
コレも簡単。
【暦を見なくなったから】

オレの記憶に残っている日付は、
西暦3621年7月26日。

忘れない。
それは、母親と生き別れたその日の日付。

それからは、忘れた。

十にも満たなかったこのオレが、戦火の中を生きていく上で必要だったものは何か。
それは、明日は何日か、昨日は何日だったか。 そんな事じゃなかったから、オレは日付を辿り生きることはやめた。
オレが考えていたのは、今この瞬間≠どうやって生きのびるか。 ただ、それだけ。
生き別れてしまった母親の安否すら、思う余裕などなかった。

───とにかく、生きたかった。

みんな、オレと同じだ。
人々は、暦を見ることを忘れ、西暦は3625年を過ぎた辺りで、途切れた。

だから今日は、西暦U−8年8月7日。

西暦1年1月1日は、イエス・キリストが生まれた日。
西暦U−1年 い ち ね ん 1月1日は、Gg戦が終結した日。

国は壊れた都市を捨て、生き残った人々を首都都市と呼ばれるcityに呼び寄せた。
そこに、身寄りのない孤児たちの居場所はなかった。

だからオレたちは、政府から見捨てられたcity−Fall cityに集まった。
温もりを求めて、寄り添った。
新しい家族を得た。
兄、姉、弟、妹。
大切にすると誓った。

「オレの分はいい。チビたちにやってくれ」

ケーキを切り分けてるユイに言うと、すぐさまブーイングが返ってきた。
それはユイからではなく、

「ダーメ!」
「今日はボスのお誕生日なんだから、ボスが食べるの!」
「ボクたちは、我慢できるもん」
「ね〜」

チビたちから。

でも、その大きな目はどれも、じっとケーキを見てる。
ホントは食べたいくせに。

「ホラ、この子たちもそう言ってる事だし。はい、ボス」

渡された皿に乗っているのは細く切られたケーキ。
・・それにしても細い。細すぎる。

視線をテーブル中央のケーキに移すと、

「・・すげーな。おい」

ユイは、丸いケーキを綺麗に16等分していた。
コレなら、チビたちの分は十分ある。

「・・・じゃあ、いただきます」

一口。
口に放り込んだケーキは、

「甘い」

不意に感じたのは、懐かしさ。
何が懐かしかったんだ?
よく分からないけど、何故か懐かしい味だと、幸せな味だと、オレは思った。

貴重な砂糖を惜しみなく使ってくれていたからかもしれない。


C−cityの暮らしは、そう楽じゃない。

オレとアズマを始めとする男連中で、1週間に1回は近隣のFall city巡りをする。 無人のFall cityを見つけては壊れた建物の中、家の中を漁り、 金目のものからただの鉄くずまで拾い集める。
それらを首都都市まで持っていき、貴金属類とか金目のものは質屋に売り、 鉄くずは鉄くず回収業者に買い取ってもらう。
そうして得た金で、オレたちは生きていた。

だが、今週はFall city巡りは休み。
リーダーのオレを無視して、ナンバー2のアズマが勝手に決めやがった。

・・・・オレの誕生日があるから。だそうだ。

だから、今回は許してやった。
オレってば寛容だな〜。

「ボース! プレゼント〜v」

チビたちの得意満面の顔。
ちょっとドキドキする。
・・・ドキドキってよりは、ハラハラって言った方がいいかもしれない。
いったいどんな代物を拾ってきたんだか。

そして、唐突に目の前に出されたのは、

「・・・・?」

きっと、開口一番、
「わァ、コレ、オレにくれるのか!? ありがとう!!!(涙)」
と、泣き真似の一つも交えつつ、喜んで見せた方が良かったんだろうけど。 無理だった。
思わず首を捻る。

素直に感想を述べるとしたら、

・・・・何だ、この物体は??

だ。 感想ですらない。
だって、分かんないって、コレ。本気で何だ!?

一言でいうならば、青い塊。
ホントに一言。
付け加えるなら、その大きさ。掌にちょうど乗るくらいでしかない丸い塊。
いや、丸くは・・・ない、ような・・・丸いような・・・・・??

「お、コレもしかしてペットロボット!!?」

オレがどう反応しようか迷っていると、先を越す声があった。
このC−cityの最年長・・・って言っても22歳だけど。オーディーだった。

「「「「「「ペットロボット??」」」」」」
辺りを踊り乱れる疑問符の内一つは、オレの頭からぴょっと湧き出たモノ。
ペットロボット? 何だソレ。初耳。

「そう。ロボットだよ。鳥の」

・・・アレ?
一瞬、何かが触れた。何かに。

詩的な言い方をするなら、それは、記憶の糸? だったのかもしれない。

「・・鳥・・」

青い塊を手に取ると、まずその感触が何とも言えなかった。
滑らかでいて、フワフワ。でも、パサパサ。
不思議な感触。

青い鳥のペットロボット。

「昔に流行ったロボットだよ。 動物が希少になったってんで作られたペット用のアンドロイド。 コレ、きっとそうだ。
は〜珍しいな。こんな原型のまま残ってるなんて。
・・・ボス、ちょっといい?」

オレの手からペットロボットを取り上げたオーディーはそれを観察し始める。
羽の裏、足、嘴、目。
次に、腹。
ここで、ようやくオーディーは口を開いた。

「あった!」

何かがあったらしい。

機械に関して、オーディーの右に出る者は、このcityの中にはいない。
『昔、俺、エンジニアになりたかったんだ』
確か、そんな事を言っていた。
今でも十分エンジニアだとオレは思う。

「で、何があったって?」

訊ねるけど、答えはなかなか返ってこない。
熱中するとコレだ。
周りのことが何も見えなくなる。
仕方なく、ケーキを口に放り込みつつ待つことにする。

数分後。

「コレ、ほとんど新品だ。燃料も減ってない。凄いな〜」

感動したような声で言い、オーディーは手中のペットロボットを見つめている。
オレにはよく分からないけど、どうやらスゴイことらしい。

「へ〜。もしかしてコレ、首都都市で売ったら結構な値になるんじゃ───」
「「「「「「ダメ───────── ッッ!!! 」」」」」」

C−cityの財産−と言ってもそんなにないけど−の管理を任せているスカイが、 思わず洩らしたその言葉に、チビたちが一斉に反対する。

その理由に、オレは驚いた。

「コレはボスへのプレゼントなの!!」
「売っちゃダメ!!」

てっきり、珍しいものだと知って、手放すのが惜しくなったのかと思っていたら。
オレへの、だって?
驚いた + 素直に嬉しい。

「だってさ、ボス」

オーディーから返ってきた鳥を手に取る。

「どっかにスイッチがあるはずだよ。ソレ押したら動くから」
「・・・どっかって、ドコだ?」
「さぁ」
「さぁ、ってお前」
「色々見てみたんだけど、スイッチが見つからなくってさ」

動かないんじゃ、死体と同じだ。
少し気味が悪い。
死体を見るのは慣れてるけど、慣れてるからと言って、見ていて気持ちのいいもんでもない。

「ん〜、スイッチスイッチ・・」

仕方なく、オーディーがしていたように鳥を観察する。
オーディーに見つけられなかったモンがオレに見つけられるかっつーの。


・・・コレが、鳥か。
青い鳥。

青。鳥。

・・・・・アレ?
オレ、コレどっかで見たことないか?

今度は確実に。
記憶の糸が───絡まる。

眼裏に蘇る絵は、遠い過去の記憶。

頭上に広がる青は、空。
足下に広がる青は、海。
空に浮かぶ白は、雲。
空を泳ぐ白は、鳥・・・?

・・・・なんだ。オレ、知ってるじゃん。鳥。

この青い鳥よりももっと大きくて、白い鳥。

何ていう名前だったっけ?
誰かが教えてくれたんだ。

気ままに空を飛んで、
時折海を撫でていく、あの白の名前を、

「鳥、か・・」

記憶の隅に埋もれていた、幼い頃の記憶。


『ほら、見て。鳥が飛んでるわ』


海を指す、細い指。


「・・・コレ、何ていう鳥?」

あの日も訊いた。

『何て名前の鳥なの?』


訊ねたオレに返ってきたのは、


「さあ、ソレはちょっと分かんないな」

違う。そんな答えじゃなくて、


『カモメ、っていうのよ』


そう。優しい声で。


「そっか」

・・・そうだ。
カモメ。
あの白は、カモメって言う鳥だった。

でも、この青の名前は、分からない。

『あなたに、いいことを教えてあげましょうね』


いいこと?


「青い鳥は、幸せを運んで来るって言うな」

・・・アレ?


『青い鳥は、幸せを運んでくるの』


そう言えば・・・、


「幸せの・・・青い鳥」

誰かがそんな事を言ってた。


『素敵でしょう?』


・・また、絡まった。


「大事にしてれば、何かイイコトがあるかもしれないぞ、ユキムラ」

いつもオレが何か拾ってくるたびに、
「変なモンじゃあないだろうなァ!? 貸せ! チェックだチェック!!」 とひったくり、結局捨ててしまうアズマの言葉とは思えない。

コレもやっぱ、誕生日効果か?
・・・・だったらオレ、毎日誕生日がいい。

「そうだな。でも、大切にって言っても・・スイッチが・・・」

カチ。

「へっ?」

音がした。カチって。
貧弱な擬音。
でも、明らかにスイッチを押した音。・・・って、え? 押したの? オレ。

「スイッチ、どこにあったんだ?」

驚いたように訊ねてくるオーディー。 オレもきっと、同じように驚いた顔をしてる。

「さ、さぁ?」

適当にいじってたから分からない。偶然だ。
視線を手中の鳥に落とすと、

「────!!」

思わず放り投げそうになる。

あ〜、ビックリした。
目が合った。
小さいけど、まん丸な目。嘴と同じ、黄色い目。

[ピィ]

小さな嘴が動いて、高い声で鳴く。

もう鳴き声まで覚えてはないないけど・・・多分、違う。
記憶の中のカモメとは、全然違う鳴き声。
カモメは、もっと・・・・・ダメだ。やっぱ、覚えてないらしい。

もしかしたら、聞こえなかったのかもしれない。

波の音が大きすぎて。
空を泳ぐ鳥は遠すぎて。

「わ、っと」

バサバサと羽を動かして、オレの手の中から脱出を試みているらしい。 あまりにも頑張ってるもんだから、背を押さえていた手を放してやる。

すると、

「あ〜ッ、逃げちゃうよ!」

チビの声にそう非難されて、慌てて鳥を捕まえようとした。
けど、時既に遅し。

「「「「「「 あ───── ッ!! 」」」」」」

バサバサバサ。

飛んだ。
小さな羽音を響かせて、飛んだ。
小さな小さな羽で、あっという間に、天井近くにまで舞い上がる。

────すげー・・。

「あいつ・・・」

ドコに行くんだろう?
ドコに行きたいんだろう?

見守っていたら、

「お?」

降りてきた。オレの肩に。

[ピィ。ピィ。ピィ]

耳元で盛んに鳴く。
少し煩い。
でも、さして耳障りじゃないのは、 高いけど、その鳴き声が澄みきっていたからかもしれない。

耳障りではないけど、

[ピィ。ピィ。ピィ。ピィ。ピィ。ピィ]
「・・・・・・」

そんな、鳴き続けられると・・・・・・やっぱ煩い。

耳元から遠ざけようと、そっと手にとって机の上に下ろすと、

バサバサバサ。

[ピィ。ピィ。ピィ。ピィ。ピィ。ピィ]

指定席。
鳥はまたオレの肩に戻ってきて、鳴く。

「・・・・・・・」

煩い。
何がって、耳元でさえずる鳥じゃなく、それを見て笑う仲間たちが、だ。

「ああ、インプリンティング機能が付いてるんだヨ。そいつ」

唐突に言ったのはオーディーだった。

・・・・はい? 何? 何機能がついてるって??

「インプリンティングって、あのひな鳥が生まれて初めて見た動くモノを親だと思って懐くっていう?」

おお。ケイは知ってたらしい。そのイン・・・・・・・・・・・・何とかっての。

「そうそう。それを機能としてインプットされてるんだよ、コイツ」

ひな鳥が生まれて初めて見た、動くモノを親だと思って懐く。
って事は、

「・・・最初に見たのって、オレ?」
「だろうね。だからボスのことを親だと思ってるんだよ」
「可哀想にな〜お前」
「まったくだ。・・・・・・・・って、どういう意味だ、アズマ!!?」

オレじゃなく、鳥に向かって言ったぞ、コイツ。

「独り言だ」
「嘘つけ」

[ピィ。ピィ]

相変わらずオレの肩でぴーぴー鳴いてる鳥。
その目は、じっとオレを見ていた。

生まれて初めて見たモノを親だと思って懐く、ひな鳥のインプ・・・・インプリ??

「・・インプ・・・?」
「インプリンティング」

そう。インプリンティング。

・・・オレのことを親だって?
面白い習性だ。自分とはこんなに姿形の違うオレを親だなんて。
あ。
まあ、ペットロボットなんだから、そうだよな。
人間に懐かないでどうするよ。

忘れる。
つい、コイツがロボットなんだって事、忘れる。

「ボス、名前つけてやりなよ。多分、覚えるからさ」

そういう機能がペットロボットにはついているからと、オーディーは言った。

「名前か〜」

言われたって、パッと出てこない。
・・名前・・名前・・。

「う──────ん」

青い体に、黄色い嘴。

「う──────ん」

・・・・・・ハッ。ひらめいた!

「よし、決めた! お前の名前はブルーだ!!」

「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」

「・・え? な、何だ?」

場に落ちた沈黙と、注がれる冷たい視線の意味が分からない。

「・・・・ユキムラ。もしかしなくても、青いからブルー、か?」
「勿論!」

胸を張って答えたら、とてつもなくヌル〜イ顔をしたアズマに肩を叩かれた。

「・・・お前、子供が出来ても命名は嫁に任せておけ。な? 子供に嫌われたくなかったらそうしろ」

どうやら、オレの安直すぎるネーミングがみなさんお気に召さなかったらしい。

何だよー、いいじゃん、分かりやすくて。
青い鳥だからブルー。
ほら、分かりやすい! オレってば親切ッ!!

「何だよ、みんなしてそんな冷たい目で見るなって! もう決めたモンな。お前はブルーだ」
[ピィ]

ブルーが鳴く。
いい返事。ほら。コイツだって気に入ってるんだって。

「あーあ。入力されちゃったよ」

Σ(=Д=) オーディーまで・・ッ!
あーあ、とか、されちゃった、とか言うなっての。

へん、いいんだいいんだ。誰が何と言おうとコイツの親はオレなんだから。

「よろしくな、ブルー」
[ピィー]


オレが知ってる、鳥の名前は、二つ。

海辺にいた白い鳥の名前。カモメ。
幸せを運ぶ青い鳥の名前。ブルー。

オレが知ってる、鳥の鳴き声は、一つ。

[ピィー]

ブルーの鳴き声だけ。






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